立海ぶっく

□Understand
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「キミが居れば幸せだ」なんて言葉は、ドラマや漫画でよく聞くものだと思う。だから俺もそれを当たり前のように口に出す。そうすれば名無しさんが少し顔を赤くしながらも微笑んでくれることが分かっているから。例えばデート中でも授業中でも部活中でも、一緒に居るだけで幸せだ、と。
確かに幸せと言えば幸せじゃが、これは本当の幸せじゃろうか。
本当はもっと近づきたいとか、もっと知りたいとか、もっと触りたいとか。欲望は沢山あるはずなのに、それでも「一緒なら」なんて。人間なんじゃからもう少し欲張りでもよくなかか。



「と、言う訳なんじゃが。」

「悩みって言うから部活の事かと思ったのに。」

「こういうのは本人に言うのが一番じゃって参謀が言うとったけぇ。」



ここ一週間くらい、雅治は何かを悩んでいるみたいだった。けれど、しつこく聞きだすのも何かと思って「相談ならのるからね」と言った結果がこれ。今までの悩み事は部活関係だったり、部活の友達関係の事だったり、宿題の事だったりしたけど今回は違ったらしい。あたしのことをあたしに相談するなんて。



「……つまり、あたしに聞きたいのは悩み解決のヒントじゃなくて、答えってこと?」

「そうじゃな。」

「え、えっと、」

「躊躇うことはなか。遠慮せんと何でも言いんしゃい。」



言葉にするならニッコリ。そんな笑顔をあたしに向けながら、雅治はあたしに答えを促す。けれど、それがつまり何を言わせようとしているのか、彼は気付いていないのだろうか。それとも、……。
どちらにせよ、あたしは「もっと近づきたい、もっと知りたい、もっと触りたい」だなんて恥ずかしいことを言う気はない。寧ろ、そんなことを言わせようだなんて思い知らせてやろうとすら思う。



「何でも、ってことは、あたしの欲望をぶちまけても良いってことだよね。」

「……、ぶちまけるほどあるんか。」

「あるよ。」

「ま、まぁ、とにかく言いんしゃい。」

「まず、雅治は意味が分からない。」



あれ、何か言い方を間違ったような気がする。まぁ良いか。
あたしの言葉を聞いた途端に雅治は硬直した。あたしの言葉が彼の脳に届いているのかを確認するために顔の前で手を振ると、下手な笑顔が向けられる。それが動揺だということはすぐに分かったけれど、この際だから言い切ることにしよう。



「いつもいつもあたしに意地悪ばっかりしてくるくせに、あたしがちょっと意地悪しただけで予想以上に拗ねるし。2人でいると必要以上に甘えてくるし、甘えだすと面倒くさいししつこいし。だけど部活の友達の前とかで甘えようとしたら拒んでくるし。いつもカッコいいくせに、あたしのこと嫌いなの?って聞いただけで涙目になるような男だし。ギャップ萌とかいうけど、ギャップがありすぎで全然萌えないし。それと、」

「や、やめんしゃい!」

「まだあるのに。」

「そこまで彼女にズタボロ言われておいて、傷付かん彼氏がいるわけなか。」



話を続けようと開きかけた口は、雅治の手によって強制的に塞がれた。それから「聞きたかったのはマイナス面だけじゃないんじゃが。」と、一言付け加えられる。それはわかった上で言わなかっただけ、と、口が塞がれたこの状況で言い訳できるわけないけど。
ぐいぐい、とどうにか口から手を離してもらおうと足掻いてみると、雅治は意外と簡単に手を離してくれて。とりあえず苦しかったから深呼吸。



「俺が聞きたいのは、」

「わかってるよ。本当はもっともっとって思うよ、あたしだって。」

「じゃあ何で言わないんじゃ。」

「雅治こそ。」

「そ、それは、その。」



顔を赤くして俯いちゃうなんて可愛い。だけどあたしだって同じ気持ちだってことわかってよね。本当に本当に大好きな人の前で、もっともっとなんて言えるわけがない。
だって、あたしも恥ずかしいもん。

暫く動かない雅治を少し突いて答えを急かしてみれば、真っ赤な顔を少しだけ上げて、まるで懇願するみたいに言うもんだから思わず吹き出した。結局その結論に至ったことは、嬉しい様で悲しい気もするんだけど。これ以上、こんな可愛い雅治を見ていたらあたしの心臓が持ちそうにないから、今日のところはこれでおしまい。



「やっぱり、一緒に居るだけで十分じゃ。」



「あたしもだよ。」と返して、二人で真っ赤になったのは、きっと通じてるってこと。

Understand



20120816.

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