立海ぶっく

□死刑宣告
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多分、こんなことは生まれて初めてじゃ。
柄にもなく早起きして、朝っぱらから何度も鏡で自分を確認して、普段は参加しないどころか学校にすら来ていない時間帯に行われる朝練に参加した。赤也は俺を見るなり「熱でもあるんすか!?」と大声を上げて、ブンちゃんには「仁王も男だなぁ」とか何とか言われて。心底驚いた顔をした真田には、幸村が「仁王に失礼だよ」と説教してくれた。
兎に角どいつもこいつも、俺が人間として正しいことをしちょるのに笑う。



「丸井が言ったとおり、仁王も男だからな。」

「何じゃ、参謀まで。」

「ふ、言ってほしいか?」

「いや、遠慮しとくぜよ。」



あぁ、確かに今日の俺は変じゃと思う。それは自分でも認める。というより、バレンタインデーじゃっちゅうのに、そわそわせん方が男としてどうなんじゃ。もうそろそろ、そういうことを気にしてもいいお年頃じゃろ、お前さんらも。
なんて、呑気なワカメたちにはまだ早いか。

柳の鋭い眼差しからどうにか逃げ切り、俺は足早にテニスコートを後にした。本当は、バレンタインデーだから早く来たことを彼女に悟られないように、朝練にちゃんと参加するつもりじゃったが、みんな(特に参謀)に勘ぐられるのはごめんじゃき。屋上へと足を運んだ俺は、ただ、HRの開始時間を待った。
フェンスにもたれ掛るようにして座れば、カシャンと音が鳴る。カシャン、カシャンカシャン、カシャン、カシャカシャン。俺は、こんな時に黙って座っていられるような人間じゃないらしい。



「何をしとるんじゃ、俺は。」



自分自身に溜息を吐いて、仕方なく教室へ向かうことにした。欲しい相手から貰えるかどうかはわからんが、去年みたいにファンの女達から受け取ってれば、暇潰しくらいにはなるじゃろうし。

教室に向かえば、案の定、俺の机はチョコレートやら何やらで埋め尽くされとって。新手の虐めじゃないかと思いさえもする。というか、これ……どうすればいいんじゃ。



「仁王くん、おはよう!」

「え、あ……ん、」

「これ、チョコレートなんだけど、受け取ってくれる?」

「あー……どうも、」



このチョコレートの山を見ても、俺にチョコレートを渡そうとする奴は、すごく度胸があると思う。いずれはブンちゃんの餌になるけぇ、とりあえず受け取るけど、俺がこんなもんを欲しがるわけがないことを気付かないんじゃろうか。そもそもこの女、誰じゃ。

俺が欲しいんは、こんな知らん女の、不味そうなチョコレートなんかじゃない。

適当にチョコレートの山をよけて、席に着くのと同時に、俺は寝る体勢。この女たちの相手でもしてやろうかと思ったが、面倒くさい。何より、この甘ったるい匂いに吐きそうじゃ。昨日の夜は、まともに寝れなかったのに、こんな甘ったるい匂いがするなんて最悪すぎる。



「仁王ー!」



しかもこのタイミングで、部活が終わったブンちゃんが現れるなんて、尚更最悪じゃ。
黄色い声が脳の奥の方まで響いてキンキンするし、女達がチョコを持って走れば風に乗って甘ったるい香りがさらに流れてきて、何よりブンちゃん本人が甘い匂いと黄色い声を引き連れてこっちに来る。
それと、今回は最悪なことがもう一つ。



「名無しさんからチョコレート貰ったぜぃ!」

「…………は?」

「友チョコとか言われたけど。」

「は?」

「……え、仁王、な、何でそんな怖い顔してんの?」



友チョコじゃろうが、本命チョコじゃろうが、まだ貰えとらん俺にそんな話をするバカが、何で俺の目の前に居るんじゃ。ホントバカ。もうバカ。バカアホデブン太。
ブンちゃんの言葉を無視して、俺は体勢を立て直した。こうなったらもう本気で不貞寝じゃ。



「…………」



が、寝づらくて、体勢を変える。変える。変える変える変える。



「仁王、とりあえず落ち着け。」

「落ち着いとるぜよ。」



確かにそわそわしとるけど、別にブンちゃんに言われるほどじゃないはずじゃ。
そんなことより、もうそろそろ渡しに来ても良い頃合じゃろ、名無しさん。ちゅうか、遅いんじゃなか?ブンちゃんに渡した時に一緒に来るとか、もうちょっと、こう。まさか、俺にチョコレート持って来とらん、なんてことはないじゃろうし。

……まさか…………え?



死刑宣告



朝、ちょっと話して、死人みたいな顔になった仁王だったけど、放課後になって名無しさんからチョコを貰った途端に元気になった。何だったんだ、今日の仁王は。もしかしたら赤也が言ってたみたいに、本当に熱があったのかもしれない。だとしたら、後で「気付けなくてごめん」って謝りんねぇとな。(丸井談)



(仁王、(熱に)気付けなくてごめん。)
(べっ、別に(丸井が先にチョコを貰ったことなんて)気にしとらんけぇ……!)
(まぁ今日は早く帰れよ。幸村君には(熱あるって)言っとくから。)
((そんなに気にしてくれて……!)ありがたく帰らせてもらうぜよ。)
(おぅ、じゃあな。)

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