立海ぶっく

□泳がされた
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「名無しさん、」



雅治はこんなに甘えん坊だったろうか。
学校では詐欺師とか言って、何かカッコイイ感じだけど、2人きりの時は知らないうちにあたしに擦り寄ってきて、気付けば隣に居たりする。そこまではわかってる範囲内だし、もう慣れてるけど、まさかそれが忙しくて少し会えないでいたうちにこんなにヒートアップするなんて聞いてないんですけど。



「な、なに?」

「何処行くんじゃ。」

「トイレに……」

「3時間で5回以上トイレに行っとるぜよ。」

「そ、そうかな、あはは、」



多分、雅治はあたしがトイレに行ってないことは気付いてるけれど、それは言わずに2分で戻って来んしゃい、と答えた。泳がせるつもりか、しつこいと嫌われることを恐れているのか。
ごめんね、と一言加えて、あたしは部屋を出る。背中に刺さる、雅治の泣きそうに睨む視線がすごく痛くて、それでいて少し罪悪感。嫌いな訳じゃなくて、寧ろ世界中の何よりも愛してる、けど今日の雅治は何か少し違うから。



「やっぱり暫く会えてなかったのがいけなかったのかな。」



独り言をぽつりと零して、溜息を吐きながら食卓の椅子に座る。あまり長い時間部屋を空けると雅治が探しに来るかもしれないから、そんなに長居は出来ないけど、少し休憩したい。いくらあたしが雅治を愛していても、擦り寄ってくるどころか抱き締めて放してくれないのは困る。
大晦日の前日までは、いつも通り雅治の部活が忙しく、やっと落ち着いたと思ったお正月休みは、あたしがおばあちゃんの家に行ったりして忙しくて会えなかった。そして、あたしの方が落ち着いて帰ってきた頃には、もう既に雅治の部活が始まっていたわけで。それから会えずにずるずると、気付けば鏡開きすら終わってしまっていた。



「はあ。」



もう一度溜息を零して、あたしはのっそりとイスから立ち上がった。もうそろそろ戻らないと、雅治が探しに来るに決まってる。
ドアノブに手をかけ、遅くなってごめんね、と決まり文句を吐きながら部屋に入り、数秒の後に首を傾げた。雅治がさっきの場所に居ない。と、思って部屋を見渡せば、そこには布団に埋もれた彼の姿が。
何でそこに居るの、何で寝てるの、何でそんなに可愛い寝方してるの、何で寝てるのにカッコいいの。一瞬で言いたいことは山ほど浮かんだけど、とりあえずやりたいことは一つ。



「おいこら、起きろ。」

「ん、名無しさん……?」



ペシッと軽く頭を叩いて、布団を無理矢理引き剥がせば、小さく身震いして布団を奪い返そうとする雅治。けれどそんなのはお構いなしで布団を没収し、あたしは雅治を叩き起こした。

さっきまであたしと離れるのをすごく嫌がって、トイレにまでついてきそうな勢いでべたべたべたべたしてきたくせに、何で少し部屋を空けただけで寝てるの!しかも彼女のベッドで寝ることに少しは抵抗とかないわけ!?それに、あたしが部屋に戻ってきたらあたしのところに戻ってくると思ってたのに、ベッドから離れるどころか起きる気配もないし、また布団かけようとしてるし!もう、何がしたいの!

そう言えば、雅治は突然あたしの腕を強く引っ張ってきて、あたしは思わずベッドに倒れ込む。そしてまたさっきまでのようにぎゅう、と抱き締められた。



「ま、雅治、」

「んー、何じゃ?」

「何じゃ?じゃなくて!離してよ!」

「ベッドにヤキモチ妬いとったんはお前さんじゃろ。」

「なっ、違う!」



咄嗟に反論するものの、自分でも薄々理解しているせいか、上手い言葉が出てこない。
あたしの首元に顔を埋めた雅治が、くすくすと笑うのが分かった。雅治は、あたしが彼をすごく愛していることを知ってる、つまり、しつこいと嫌われるのを恐れるわけがない。それに早く気が付くべきだったと、後悔してももう遅くて、両手両足であたしをガッチリと固定する雅治は、もうトイレにも行かせてくれないかもしれない。


泳がされた

(名無しさん、名無しさん、名無しさん、)
(苦しいってば、)
(愛しとるぜよ)
(っ、(好きになる人間違えた……))


★★★
お正月企画、やっと終わった!消化し忘れがなければ!
やっと小春ちゃんシリーズ始めれる!
あと、バレンタイン企画始めます!
詳細は後ほど。


20120120.マガジンお正月企画

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