立海ぶっく

□厄年にしてやろうか
1ページ/1ページ

※蓮二目線、蓮二メイン



妹の名無しさんは、弦一郎が好きらしい。それは前々から知っていることだし、名無しさんの意志だから(本当はもっと良い男が居るんじゃないかと思うが)否定はしないとしよう。けれど、名無しさんが弦一郎の家で正月を一緒に過ごすというのは、かなり、とてつもなく、尋常じゃないほど気に食わない。そこでこの柳蓮二、兄として非道だとは思うが、邪魔してやろうと思う。



「……ということで、正月は家族で過ごす。」

「…………え、その“ということで”はどこから来たの?」

「気にするな。兎に角、正月は家族で過ごす。良いな。」

「や、やだよ!真田先輩と一緒に過ごすって言ったじゃん!」

「その話は確かに聞いたが、良いとは言っていない。」



ぷう、と頬を膨らませて遠慮無しに俺の体をどすどすと殴ってくる名無しさんは可愛くて仕方ないが、だからこそ弦一郎と一緒に正月を過ごさせるわけにはいかないのだ。可愛い可愛い名無しさんの兄として。
正月を一緒に過ごすカップルが年越しにやることなんて、俺じゃなくても想像がつく。あけましておめでとうの瞬間に、照れながらもキスをし、顔を上げた後にお互い顔を真っ赤にさせながら「あ、あけましておめでとう……」と俯きがちに言うのだ。
究極に気に食わない。



「じゃ、じゃあ、真田先輩を家に呼ぶってのは……?」



しかしまた、名無しさんが今にも泣きそうなうるうる目でそう言うのを拒めないのも事実。「百万歩譲って、許す。」そんな子供臭い言葉を発すれば、名無しさんはさっきまでとは裏腹に、途端に嬉しそうな顔を見せた。「真田先輩に連絡するんだ!」とか言いながらメールを打っている名無しさんの表情が可愛くて可愛くて、それと同時に腹の中でどす黒い感情が渦巻くのが分かる。
名無しさん絡みになると大人気ないな、俺は。

結局、家の掃除やら何やらを出来る限り名無しさんに押し付け、当日である31日の夜9時まで弦一郎と会う時間を作らせなかった俺は、自分の行動力の凄さに感動するほどだった。
弦一郎が着いた時も同じ要領で、俺が(仕方なく)出迎えてやる。



「お、おう、蓮二、世話になる。」

「あぁ。」

「れ、蓮二、テンションが低くないか……?」

「ふ、寧ろ最高潮だ、安心しろ。」

「うむ、そうか。」



最高潮に機嫌が悪いから、今更どうにもならない、だから安心しろ。
とりあえず、弦一郎を家に入れ、氷とお茶が9:1の割合で入っているコップを差し出す。それも、あたかも平然を装って。弦一郎はそれに違和感を覚えたようだが、出された物には文句を言わないのが弦一郎だと分かった上での仕業なため、これといって行動で何かを示すようなことはしない。
ただ、一言。



「蓮二、疲れているようだったら俺に構わず休んでいいのだぞ……?」

「そんなことはない、大丈夫だ。」

「それならいいのだが、」

「構うな、弦一郎。」



何かを言いかける弦一郎に、いつもより少し大きく目を開いて見せれば(精市には開眼と名付けられた。)弦一郎は少し硬直した後に、そうか、と。
確かに疲れている。だがしかしその元凶の一割は正月の多忙であり、残りの九割全ては真田弦一郎、貴様の所為だ。弦一郎が俺の可愛い可愛い可愛い名無しさんと付き合いさえしなければ全てが丸く収まるというのに、地道だが順調に進んでいる二人の関係が最上級に鬱陶しい。といっても、相手が俺の可愛い可愛い可愛い可愛い名無しさんじゃなければ、弦一郎の恋など興味もないのだが。



「お兄ちゃん!やっと部屋片付けたよ!すっごい綺麗になったから見てー!」



弦一郎と二人で静かな空間を過ごしていると、不意にとたとたとた、と階段を駆け下りる音がして、満面の笑みをした名無しさんが居間に入ってきた。が、弦一郎を見た瞬間に急に真っ赤になって、走ってきた勢いで咄嗟に俺の後ろに隠れる。
「来たんだったら教えてよ、意地悪。」なんていう名無しさんは本当に可愛くて仕方ないが、顔を真っ赤にさせている相手が弦一郎だというのが至極腹が立つ。



「来たと分かったら今年中に片付けられなかっただろ。」

「う、た、確かにそうだけど。」

「世話になるぞ、名無しさん。」

「う、うん!」

「で、部屋が何だって?」

「あ、綺麗になったから見て欲しいの!真田先輩も!」

「……弦一郎はお世辞を言うに決まっているだろう、今見せなくても良いんじゃないか?」

「はぁい。」



理解力があって、俺の言うことをちゃんと聞く辺りが特に可愛い。俺に部屋を見せ終わって、居間で待っていた弦一郎に「後で見てね!」とか言わなければもっと最高だったが、その辺は許容範囲内だ。

それから暫く談笑し、年越しそばも食べ終わり、新年まであと数分という頃。テレビでカウントダウンの声が聞こえ始める中で、咄嗟に「お兄ちゃんはあっち向いてて」なんて言われて、強制的に首を90度強回された。名無しさんには手加減という言葉を教えなければいけないらしい。
軽いが強い痛みが走る首を抑えつつ、本人へと目を向ければ、俯かせた真っ赤な顔をゆっくりと上げ、ふと目があった拍子に「あ、あけまして、おめでとう、」とどちらからともなく呟く姿。それを瞬時に理解し開眼する俺、と目が合って硬直する弦一郎を除夜の鐘が包み込んだ。


厄年にしてやろうか

(れ、れん、じ……)
(どうかしたか?)
(え、あ、いや、)


★★★
弦ちゃんリクだったんだけど、何か、あれ?
あれれれ?
あれええええええ?

20120112.マガジンお正月企画

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ