立海ぶっく

□今年もこれからも
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「太った?」



新年を迎えて数日経った頃、お互いに用事があってどうしても一緒に年を越せなくて、何日も寂しい思いをしてやっと会えたというその日に。これから新年の初デートに行こうかと迎えに来た、まさにそのタイミングで。
訝しげな顔をした名無しさんは、遠慮なんて言葉を知らないんじゃないかというくらいに、堂々と俺の腹を抓んでストレートにそう聞いてきた。



「新年早々それはねーだろぃ。」

「新年早々これもねーだろぃ。」

「ごめんなさい。」



ぐい、と肉を引っ張られたら、もう謝ることしか出来ない。
確かに餅とかおせち料理とか食べ過ぎたかもなーとは思ってたけど、そんなにあっさりわかる程だとは思わなかった。それに、ラフな服装なら腹回りなんてわかんねぇし。……ってことは、顔が太った?丸くなった?丸いブン太?いやいやいや、笑えねぇし!



「あたし、ブン太がもっと細かったら、もっと好きになると思う。」

「いや、それマジですげーショックだから言わないで。」

「だってブン太が太ると、あたしが色々言われるんだよ!お前さんのペット肥えたんじゃなか?とか、肥やし過ぎるのは良くないと思うぞ。とか、家畜の管理はしっかりしてね。とか!別にあたしが肥やしてるわけじゃないのに!」

「そもそも家畜じゃねえっつーの!肥えたとか言うな!大体誰が言ったのかわかったけど!」



これでも気にしてんのに。そう言えば、心底驚いた顔で「嘘!?」なんて言われたから、もう本当に傷付いた。それから笑って「冗談冗談」って言ったから、まぁとりあえず許すけど。
それに、逆に言えば名無しさんが俺のことをすげー見てるってことだし!ポジティブに考えれば大丈夫だ、俺!天才的にポジティブに考えろ、俺!



「あーあ、ブン太が細かったらなぁ……」

「だからマジで悲しくなるから、」

「あ、ちょっと待って!」



突然、それまで名無しさんが頭の中で何を考えてたのかはわからないけど、俺の言葉を遮るようにそう叫ぶ。叫ぶ必要も遮る必要もないと思うけど、とりあえず言葉を止めた俺に、名無しさんはニコリ。
やっぱりいいや。いや、そりゃあ少しは痩せてほしいとは思うけど、極度に痩せなくていい。だって、極度に痩せたブン太って、あんまり可愛くなさそうだし。



「…………。」

「だから、そのままのブン太でいてね!」

「それって、俺喜んでいいのか?」

「もっちろん!」



笑顔でそう答える名無しさんに、俺は言葉が見当たらなくて。戸惑いを隠しきれない俺に、名無しさんは唐突と言っていいほど急なタイミングで、唇を触れさせた。勿論、俺の唇に。
意味が分からなくて更に困惑する俺に名無しさんはただ一言、大好きだよ、と。



「し、新年早々太ってても?」

「うん。」

「“可愛い”男でも?」

「うん、そう。」



何の迷いもなくそう答える名無しさんに、俺が抱き着くまで、そう時間はかからなかった。
大好き、愛してる、今年だけじゃなくて、一生、ずっと、永遠に。
勢い余って心の中の声をすべてぶちまける俺に、名無しさんは笑って。



「だからこそ、今年もよろしくね、ブン太。」



あぁ、今年もまた幸せな年になりそうだ。

今年もこれからも。


(な、丸いブン太でもいいの?)
(……それは、ちょっと笑えないんだけど。)
(ですよね。)


20120111.マガジンお正月企画

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