立海ぶっく
□お決まり
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テレビでカウントダウンが聞こえてきた頃、あたしと彼はぱちり、と目が合うのがわかった。数秒見つめあった後に、彼は「ふふ、」と可憐に、若しくは美麗に、けれどどこか意地悪く微笑む。
「見とれてた?」なんて聞いてくる彼、精市は、何故かすごく嬉しそうで、楽しそうで。彼がワクワクしているらしいということは、鈍感なあたしでもすぐにわかるくらい明白だった。
「見とれてた、かもしれない。」
「ふふ、俺もだよ。」
「……精市、何か楽しい?」
「うん。何かね、わくわくするんだ。」
ほら、やっぱり。心の中でそう呟きながら、あたしは精市を見つめ続けた。
精市は、たまに子供っぽいところがある、とあたしは思う。例えば、クリスマスの時。サンタなんかいないと分かった上で、あたかもサンタが居るかのように「夜中まで起きてようか」と言って、実際に朝方まで起きてたんだとか。バレンタインデーの時は、表現しきれないくらいすごく喜んでくれたらしく、あたしが精市にチョコをあげたことが色んな人に知れ渡っていた。
そう言うところも好きなんだけど。
「年越しだしね。」
「それもそうだけど、」
「だけど?」
「俺がこんなにわくわくするのは、名無しさんと一緒に居るからだと思う。」
「……何で?」
「ヒミツ。」
こういう時、あたしがもっと人の感情に敏感な人間だったらよかったのに、とつくづく思う。そうすれば、精市みたいな不思議な(と言うのは失礼かもしれないが)人間と一緒に居ても、こうやって意地悪されなくて済むのに。
「精市の意地悪〜」と悪態づいてみると、精市は小さく笑って「名無しさんが俺の愛しくて可愛い彼女だからだよ。」と言った。それがつまり、わくわくする理由なのか、意地悪する理由なのかは読み取れなかったけれど。
「……ってことは、3・2・1、あけましておめでとう……ちゅ!みたいなことやるの?」
「…………そういうところは、気付くのが早いっていうか、なんて言うか、」
ごにょごにょと語尾を隠す精市に、あたしは首を傾げたけれど、精市は首を左右に振って「なんでもない」という顔をした。
もしも将来、精市に限って絶対ありえないとは思うけど、浮気をしたとしたら、あたしは多分気付けない。気付けたとしても綺麗に隠される。そんな自信があるくらいに鈍感なことはわかってる、ん、だけど。
ぷう、とわざとらしく頬を膨らませて見せれば、精市はあたしの顔を潰すように両手で包み込んだ。
「そういう顔も可愛いけど、普段の顔の方が好きだよ。」
「だって何か悔しいもん。いっつも精市に誤魔化されてる気がする。」
「拗ねてる?」
「拗ねてる。」
そう言うと、今度は両手で頬を抓られて、少し痛い程度に両サイドへ引っ張られた。
さっき「普段の顔の方が好き」とか言ったばかりなのにこの仕打ちは酷い、と言い返したいけれど、頬を抓られているせいでうまく喋れない。抵抗するのを諦めて大人しくしても、精市は手を放してくれなくて。あたしに真面に喋らせてはくれないらしい。
「名無しさんはそのままで良いんだよ。俺は鈍感(だけどたまに敏感)な名無しさんが好きなんだから。」
「へーいひ、いひはふふるほん。(精市、意地悪するもん。)」
「名無しさんの反応が面白いから、つい、ね。」
「ほーひふほほほは、(そーいうところが、)」
その続きを喋ることはできなかった。
精市の唇があたしの唇を塞ぎ、頭に回された手であたしをガッチリと固定している。そんな、真っ白になったあたしの頭の中に飛び込んできたテレビからの一言が、あたしにこの状況を漸く理解させた。あけましておめでとう。
そう言えば、あたしがさっき自分で言ったんだっけ、あけましておめでとう……ちゅ!って。
「そーいうところが、の続きは?」
「……好き。」
「よくできました。」
良い子良い子、と頭を撫でられながら思ったのは、今年もまた幸せな気がする、ということ。
★★★
お正月企画とかすっかり忘れかけてた光凛です。←
最近、題名考えるのがすげー時間かかる。でも題名から考えると、リクエストに当てはまらなかったり……。頑張ります。
(20120106)マガジンお正月企画