立海ぶっく

□玩具じゃなく、
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「……あけまして、おめでとさん。」

「……ばか、なの?」



思わず、そう呟いてしまった。
夜の11時くらいに年越しそばを食べて、あと5分くらいで新年を迎えようとしているタイミングで、何故か家のチャイムが鳴る。誰だよ、なんて思いながらもドアを開けた時にあたしの目に映ったのは、息を切らした彼、雅治の姿だった。そして、冒頭に戻る。
家の中から“あけましておめでとうございます!”というテレビの音が聴こえてくる中、目の前の男があたしを抱きしめてきて、苦しい。



「新年の第一声が、彼氏に向かって“ばかなの?”とはどういうことじゃ。」

「うわ、あたしの今年の第一声が“ばかなの?”ってどういうこと!?」

「……それ今、俺が聞いたんじゃが。」



呆れ半分であたしを見る雅治に、あたしは「雅治の所為だ!」と返す。
今年の年越しは一緒に居れそうにないぜよ、すまん。とかメールしてきたから、本当は一緒に居たかったけど会えないっていうんだったら仕方ないか、っていう気持ちであたしも家族と楽しい正月を過ごそうと思ってたのに。あれだけ悲しそうな顔して、本当にすまん、とか言われたら誰だって信じちゃうのに。
あたしの言葉に対して、雅治はニヤリと笑った。



「流石は俺の彼女、じゃな。彼氏のペテンくらいお見通しっちゅうことか。」

「ふん、会えないとか言っておいて会いに来るなんてドッキリ、雅治なら考えそうだもん。」

「……ふは、」

「なに、」

「お前さんもまだまだ甘いのう。」



それだけじゃなか、それがヒントじゃ。そう言って楽しそうな顔をする様子からして、雅治の中では差し詰め彼が出題者であたしが回答者といったところだろう。さっきは「流石」とか言ってくれたのに、今度は「まだまだ」だなんて、随分と気の移り変わりが激しい詐欺師だ。
まぁ、それだけじゃないなんてヒントを言われたら、大体予想はつく。



「……雅治は、ゆっくり歩いてきた。」

「それで?」

「新年を迎える5分前くらいまで、ここで待機してた。」

「ほう。」

「顔が赤いのは、寒い中走ってきたからじゃなくて、寒い中ずっとここで立ってたから。」

「プリッ。」

「因みに言うなら息切れも演技、そういうことでしょ?」

「大正解じゃ。」



子供みたいに単純な喜び方をする雅治に、あたしは思わず溜息を一つ。
つまり、本当に本当の年末年始だというこの数分間の間に、あたしは雅治という厄介者に絡まれて弄ばれたわけだ。雅治が楽しいならいいか、なんて考えるあたしだからこそ、絶好の標的として選ばれたのかもしれないけど。



「名無しさん、」

「ん、なに?」



やっぱり俺の彼女じゃけぇ、云々かんぬん、とブツブツ何かを呟く雅治を微笑ましく見守っていると、不意に目があった雅治があたしを呼ぶ。それから、ぐい、と腕を引っ張られて強引に抱きしめられたかと思えば、そのままスムーズな流れでキスをされた。
顔が近付いたときにふと雅治が不敵に笑うのが見えた気がするけど、それは気付かなかったことにしよう。



「今年もよろしく頼むぜよ。俺をこの世で一番楽しませられるんは、お前さんじゃけぇ、よろしくしてくれんっちゅうんじゃったら死ぬ気ナリ。」

「新年早々その冗談は重いよ。」

「本気じゃ。」

「……、わかった。“一緒に”楽しもうね。」



その“一緒に”の意味をちゃんと理解してくれたかどうかはわからないけど、こくりと頷いた雅治は、にこっと笑ってあたしを抱きしめた。


玩具じゃなく、

(人間として扱っていただきたい。)



20120111.マガジンお正月企画

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