立海ぶっく

□その笑顔に殺される
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「あのね、精市に会いたい。」



夜中に突然電話が来て、ひとつだけ特別に設定されたソレに心臓が高鳴る。それでいて、この言葉が突然発せられたもんだから、俺は熱くなった顔を懸命に手で仰いだ。クリスマスはお互いに用事があって会えないってことになったから、一瞬たりとも会えないものだと思って諦めていたのに。



「だ、だめ、かな……?」



少ししゅんとなる名無しさんの声が、とても愛おしく感じるのはどうしてだろう。
「ダメじゃないよ。今すぐ行くから。」そう答えながら、俺は急いで身支度を始めた。いくら夜中だからといっても、折角の聖なるクリスマスなんだから、いつもよりはちゃんとした格好で会いたい。いつもより少し暖かい格好をして、全速力で名無しさんと待ち合わせた場所に向かう。



「精市!」



俺を見つけた瞬間、名無しさんは駆け寄ってきて、飛びつくように俺に抱き着いた。それをしっかり受け止めて、俺も名無しさんをぎゅう、と抱きしめる。
急に精市に会いたくなって、我慢できなくて、クリスマスパティー抜け出してきたの!
俺に抱き着きながらそう言う名無しさんが子供のように無邪気に笑うから、俺も名無しさんに笑顔を返した。



「ずっと名無しさんのことしか考えてなかったから、会えて嬉しいよ。」

「あたしも!」



クリスマスなのにイルミネーションだとか、そういうものを一緒に見ることはできなかった。けれど、そんなものなんか無くても、もっと言うならクリスマスなんか無くたって、俺は名無しさんといるだけでとても幸せで。
ふと、着ていたジャンバーを名無しさんの肩にかけてもう一度抱きしめ直すと、名無しさんは照れたようにありがとうと呟いた。そうする為に着てきたコートなんだよ、なんて口には出せないけど。



「名無しさん、」

「なーに?」

「好き。」

「っ、」

「大好き。」

「ちょ、え、えっと、あたしも!大好き!」

「ふふ、顔真っ赤だよ。」



抱きしめるだけの愛情表現では我慢できなくて、俺は刹那どうしようかと迷った末に、想いを素直に言葉で表現してみた。すると、名無しさんは真っ赤になった顔を俺の体に埋めて、ぐりぐりと頭を押し付ける。それが恥ずかしい時に名無しさんがする特有の行動だということはわかってるけど、敢えてそれには気付かないフリで、今度は耳元で一言。



「クリスマスプレゼント、欲しい?」



名無しさんは一瞬ビクリと肩を揺らしたが、すぐに顔を上げてキラキラした目でこくりと頷いた。
あぁ、もう。こんなに可愛いなんて反則としか言いようがない。
出る直前にポケットに突っ込んできたそれを名無しさんの前に出して見せると、名無しさんはソレをじっと見つめて、それから俺を見て、またソレをじっと見つめる。



「ネックレス……こんな高そうなの、良いの?」

「気に入らない?」

「ううん!すっごく気に入った!」

「じゃあ高いかどうかなんてどうでも良いよ。名無しさんが喜んでくれたらそれで満足。」



そうすれば「今付ける!」と嬉々とするから、俺は名無しさんにソレを付けてあげた。
少し早いかもしれないけど、ずっとつけられるように大人っぽいデザインのを選んだつもりなんだけど、どうかな。
そう説明したら、名無しさんは一瞬考えるような仕草をして、俺から一歩離れた。そして。



「どう?」



クルリと一回転して、ふわりと笑ってみせる名無しさんに、俺は何も言うことが出来なかった。子供みたいに笑う名無しさんも好きだけど、大人みたいにそうやって笑う名無しさんも好き。そう言いたかったのに、言葉が出なくて、ただ「好き」と。
また顔を真っ赤にして飛びついてきて、俺の体に頭をぐりぐりとする名無しさんを俺は強く抱きしめた。



その笑顔に殺される






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『必ずやって来る』が何となく不燃焼だったため、同じリクエストでもう一つ書いてみました。激甘リクエストだったのに、結局どっちも激甘に到達しなかった気が。ぐすん。

20111223.マガジンクリスマス企画

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