立海ぶっく

□それ即ち、
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「名無しさんさん、好きです!」

「……は?」

「なので、あの…ファンクラブに入る許可をください!」

「あぁ、勝手にしろ。」

「あ、ありがとうございます!それでは失礼します!」



世の中にはいろんな人間がいるもんだ、と思った。
この学校にはいくつかあるファンクラブの中に、あたしのものがあると気が付いたのはつい最近『名無しさん様ファンクラブ』の入会規約が少し改良したせいだ。入会規約の1番最後の行に付け加えられたのは、たったの一言。

『以上の項目を理解し、守れると誓うものは、名無しさん様の許可(サイン)をいただいてくること。』

というわけで、毎日毎日ファンクラブに入りたいという人が会いに来る。正直あたしにとって迷惑以外の何物でもないから、勝手にやってて欲しいんだけど。大体、男子だけならまだしも、何で女子まであたしのファンクラブに入るんだろう。





「…っていう愚痴を誰かに聞いてもらいたかったんだ。」

「で、俺が選ばれたってか。」

「ごめんな、お前くらいしかこんな話できないし。」

「ま、いいけど。」



屋上で風に当たりながら、隣に立つ丸井ブン太は溜息をついた。ブン太はあたしの幼馴染だし、同じくファンクラブを持つブン太ならこの気持ちをわかってくれるはずだから。そういえば、あたしが常にボールペンを持つようにしたことも、すぐに気が付いてくれたんだっけ。(勿論、ファンクラブ加入者にサインしてあげるため。)



「あーあ、何なんだよファンクラブって。あたしのことなんかほっとけっつーの。大体、こんなあたしのどこがそんなに好きっつーのかわかんねーし。」

「そりゃ、顔も性格も全部だろぃ?」

「……は?何でブン太が自信満々に答えてるんだよ。」

「あ、いやいや!皆もきっとそうだろうなーっつー予想…?」



突然変なことを言い出すブン太に怪訝な表情を向ければ、ブン太は少し慌てた様子で言葉を付け足した。それをあたしは「ふーん…」なんて流し聞きしながら、大きく欠伸を一つ。すると、そんなあたしを見たブン太は不意に、その場に座って大きく足を開いた。足の間を指差して手を広げるその行為を「来い」という意味だと素直に受け取ったあたしは、勿論、遠慮だとかそういう類のものをブン太に対しては持ち合わせていない。



「名無しさん、」

「あ?」

「変わんねーな。」

「……ブン太も、な。」



「体型とか、体型とか、体型とか?」そう言ってニヤリと笑ってやれば、あたしを背中から抱きしめている体勢のブン太は抱きしめる力を強めてきて。苦しい、と暴れながら、成長した力に感心した。ぽっちゃりしてるように見えて、結構筋肉もついてるみたいだし。やっぱりブン太も男なんだ…。



「あーあ、男になりたかった。」

「何だよ、急に。」

「男の方が楽そうじゃん?」

「いやいや、男にも色々あるんですけど。…つーか、」



言いかけて、ブン太は急に口をつぐんだ。けど、そんな奇妙な行動が気にならないはずがなくて。「“つーか”、何だよ?」と聞き返すと同じに振りむけば、予想外に顔を真っ赤にしたブン太が目に映った。
その一瞬であたしの頭上に疑問符が大量に浮かんだのは言うまでもない。
ブン太のこんな顔も、ブン太の気持ちを考えたのも、こんな乙女チックな状況も、何もかもがあたしにとって初めて。だから、かもしれない。緊張して体も頭も正常に働かなかった。



「っ、見んなバカ!」

「ブン太が何か言いかけるから…!」

「う、るせ!名無しさんが女じゃなかったら好きにならなかったなんて、そう簡単に言えるわけねぇだろぃ!」

「……は?」

「あ、」



少し、フリーズ。
それから咄嗟にブン太から目を反らした。今までそんなこと考えたこともなかったのに、そんな急に告白なんて卑怯すぎる。しかも何で照れてんだよ、あたし。確かにブン太以外の男なんてかっこいいとも優しいとも思ったことないし、ブン太のこと自然と目で追っちゃうけど……けど?けど、って何?



「好きなのか?」

「…あぁ、俺は名無しさんが、」

「じゃなくて、あたしがブン太を…好きなのか?」
「はぁぁあ!?何で疑問形!?っつーか前々から思ってたけど、お前って天然だろぃ!」

「え?マジで?」



今感じてる“好き”の感情が、恋愛的な意味での“好き”だなんて考えたこともなかった。けど、やっぱりあたし、好き、だ。
あぁ、これが恋なのか。



それ即ち、



(んじゃキスしよーぜ!)
(ちょ、待っ、心の準備が…!)
(男のくせに情けねーな。)
(お前が雄々しいんだろぃ!)



20110505.闇風光凛

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