立海ぶっく

□不敵な笑み
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今まであたしは、蓮二くんを好きな気持ちだけは誰にも負けないという自信があった。誰に何と言われようが蓮二くんを何回もデート(あたしの中ではそう思ってる)に誘っては街に出掛けたし、放課後の部活の時には他のファン達に揉みくちゃにされながらも必死に応援したし。当たり前だけど公式試合の時には大きく“蓮二くん頑張って”と書かれた旗を振って、多分レギュラーじゃない部員よりは汗かいてると思う、あたし。



だけどこの間、あたしは見ちゃいけないものを見てしまったかもしれない。蓮二くんと、女の人。その人はあたしなんか世界に存在しちゃいけないんじゃないかって思えるくらいに、笑顔がとてもよく似合う綺麗な人で。(胸も大きい…!)あたしはそれを見て見ぬふりをして、家まで走って帰った。

あたしとあんなに仲良くしてくれたのは、やっぱり蓮二くんの優しさだったんだな、なんて悔しさにまみれた考えがあたしの頭で渦巻く。けど、暫く時間を置いた後に思ったのは、あぁ、あたしなんかじゃ勝てるわけない、蓮二くんが幸せならそれで充分、そんな考えで。涙を堪えようと枕に顔を埋めたら、枕はすぐにびしょ濡れになった。







「名無しさん、おはよう。」

「おはよう、蓮二くん。」



流石に、友達なんだから挨拶を無視することはできないけど、あの日からあたしと蓮二くんの距離は結構遠ざかったと思う。楽しみにしていたはずの蓮二くんのテニス応援も行かなくなったし、勿論デートなんか誘わなくなった。これでいい。蓮二くんが幸せなだけで満足するんだって自分に誓ったんだから。遠目に蓮二くんを見て小さく溜息をついているあたしは、はたから見れば変人以外の何者でもないだろう。



「席がこんなに近いのに、ここまで遠目で見るやつも珍しいな。」



不意に、斜め前の席に座っている蓮二くんは振り向いて、ふっと笑いながらあたしにそう言った。暫く「お喋り」に分類されるような会話をしていなかったせいか、今まで沢山話をしてきたはずの蓮二くんとの会話にすごく緊張する。

ああああ!あたしってば何で今更緊張なんかしてんの!頑張れあたし!



「何か、遠くて…?」

「まぁ、お前が言いたいことは大体わかってる。」

「…と、言いますと?」



質問で返せば、蓮二くんは勝ち誇ったような顔をして、それから「聞きたいか?」と嫌みな笑顔をあたしに向ける。それがどういう意図で向けられたものかわからなかったけど、あたしはただ、蓮二くんに向かって首を縦に振った。



「俺が女性と歩いていたのを見て、彼女だと思った。しかも自分より綺麗だったことがとても悔しい。けれどその女性が俺の彼女で、それで俺が幸せなら我慢しようと俺と距離を置いていた。違うか?」

「……」



言葉を返す、その行為の存在すら忘れるところだった。蓮二くんの言ってることは、図星だとかそんな簡単な言葉じゃ表せないくらい的確で。あたしの気持ちが読めていると言っても過言じゃないと思う。だけどその事実に恐怖を感じないのは、やっぱりあたしは蓮二くんのことが好きという証拠なんだろうか。



「聞き方を変えよう。“当たっているだろう?”」

「…流石、蓮二くん。」

「本当は俺のデータ力くらいわかっていただろ?」

「まぁ、そうなんだけど…」



あたしが口籠っていると、蓮二くんは困ったように笑う。



「名無しさんらしくないな。今までの積極性はどうした?」

「だって、蓮二くん、迷惑でしょ?」

「…俺が今から言うことをしっかり聞いておけ。」



唐突に、何の脈略もなくそんなことを言われたら、何て言葉を返せばいいのかわからない。というよりも、蓮二くんの真剣な表情に圧倒されて言葉が出てこない。そんな真剣な表情で見つめられたら、時間が長く感じちゃう。



「まず、あれは俺の彼女じゃなくて姉だ。」

「…え?」

「今度ちゃんと紹介してやる。それから、もっと自信を持ってもいいと思うぞ。」



不敵なその笑みを信頼してみる。



リクエスト(101112.闇風光凛)

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