立海ぶっく

□笑顔を求む
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こんなことするつもりじゃなかったのに、まさか泣くなんて思ってなかったから。目から大粒の涙を零しながらも歯を食いしばる名無しさんに俺が言ってやれるのは、ただ「とりあえず家来て、落ち着こうぜ?」の一言。そこからここに着くまで俺は名無しさんに何も言ってやれなかった。

わかってる、俺が悪いことくらい。デートがてらショッピングしてる時に通り掛かった1人の女に、俺は思わず「すげー綺麗」って呟いた。それは本当に『すげー綺麗』で、名無しさんも笑って「そうだね!」って認めてくれて。俺のセンスだって捨てたもんじゃない。



「じゃあ、あたしはどう?」



だけど、急にスカートをひらりと舞わせて首を傾げて上目使いに見られたら、センスが良いとか悪いとかそんなの関係なくなる。可愛い?綺麗?そんなもんじゃない。世界一だって言い張れるくらいに容姿端麗で、俺なんかとは全然釣り合わないんじゃないかって思えた。



「そ、それはっ…!」

「…可愛くない?」

「そうじゃなくて、その…!」

「もういい…」



だからこうやって名無しさんを家に入れて、とりあえずお茶を出す。少し飲んだところを見ると、怒ってるわけじゃないらしい。けど泣き顔なのは未だに変わらないから、またすぐ泣かせちゃうんじゃないかって思うとどうすればいいのかわかんなくて。



「名無しさん…」

「あたしだって、あたしなりに頑張ってお洒落したんだもん…。」

「うん」

「少しは自信もあったんだよ…?」

「…あぁ、」



わかったから、本当はすっげー可愛くて言葉が出なかっただけだから、だから。もう泣きそうな顔すんなよ、頼むから。そんな顔されっと、俺まで泣きそうになるんだよ。
言えば、名無しさんは目をぱちくりさせて、それから少しの間を空けて頬を赤らめる。「初めからそう言ってくれれば良いのに」なんて、それが出来ないのが俺だっつーことをきっと名無しさんはわかって言ってるんだ。



「あたしが全然可愛くないから黙っちゃったのかと思ったんだよ、あたし。」

「…ごめん、誤解させちまったみてぇで。」

「バカ也…」

「ほんと…悪かった。」

「でもね、嬉しい。」



俺の手をぎゅっと握ってそう言う名無しさんが本当に嬉しそうに笑うから、俺まで思わず笑顔になる。「赤也に可愛いって言ってもらえて、凄く嬉しいよ、あたし。」なんて、そういう素直な所も可愛いっつーのを名無しさんは自覚してないんだろうか。



「だったらいくらでも言ってやるよ。」

「本当に?」

「あぁ。…名無しさん、可愛いぜ。」



ちょっと照れるけど、結構真剣にそう言った。はずなのに、名無しさんは俺の顔を見ながら、小さく首を傾げて「うーん…」と唸る。それに対して俺も首を傾げれば、納得いかないと一言。それは俺の肩を下げるには十分過ぎて、よくわかんねぇけど謝られた。



「俺的には本気だったんだけど。」

「なんて言うか、本気とかじゃなくて、その…」

「本気とかじゃねぇってどういう意味だよ?」

「自然体で…?」



照れたように首を傾げてそういう名無しさんに俺が困った顔を向ければ、名無しさんは少し苦笑いして。「今すぐじゃなくても良いよ」と付け加える。
だけどそういうの、俺としてはちょっと悔しいっつーか、何て言うか。負けた気がして仕方ないから、声を振り絞ってただ一言。

お前が1番可愛い。


笑顔を求む


リクエスト(101010.闇†風)


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