立海ぶっく

□嬉々と、
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木陰で本を読む彼は、頭が良くて物静かで、だけど運動神経はすごく良くてカッコイイ。そこに歩み寄って行けば、彼は私に気付いたらしく本を閉じてこちらに目をやった。



「今日、部活は?」

「弦一郎が休みだから今日は練習しないと精市が言い出してな。」

「精市は気まぐれだからね。」

「あぁ、そうだな。」



笑って見せれば笑い返してくれる。そんな彼のすぐ隣に腰を下ろせば、彼は私を見て「帰らないのか?」と聞いてきて。



「それ、読み終わってからで良いよ。」

「そうか、わかった。」

「私は寝てるから起こしてね?」

「あぁ、肩を貸してやる。」

「ありがと。」



遠慮無く彼に寄り掛かる。流石に身長の関係もあって、肩に頭を乗せることは出来ないが。私が寝やすいように態勢を変える彼に愛おしさを感じる。



「今日は何の本?」

「今日はミステリーだ。」

「おもしろいの?」

「あぁ。」

「ふーん。」



目を閉じたまま話し掛けると、彼は淡々とそう答えた。ミステリー、か。彼が本を読んでいるところはよく見るが、その中でミステリーを読んでいる彼は初めてだと思う。



「気になるなら貸すが、どうする?」

「じゃあ借りる。」

「わかった。」



それから私はいつの間にか寝たらしく、気が付いた頃には辺りは真っ暗。ふと隣に目をやると、私に寄り掛かるようにして寝ている彼の姿が映った。起こすのは可哀相な気がして暫く黙っていると、少し経った頃に彼も目を覚ました。



「おはよう」

「…寝てしまったらしいな、すまない。」

「大丈夫だよ。帰ろうか。」

「そうだな。」



目を擦るような仕種をしながらそう言う彼を可愛く思いながら立ち上がると、彼もまた立ち上がって言葉を返す。どちらからともなく手を繋いで歩き出せば、少し冷たい風に身を震わせた。



「名無しさん、もっとくっついても構わないぞ。」

「ありがと。」



言われるがままに体を寄せれば、彼も私に体を寄せて来て。嬉しくなった私が腕にしがみつくようにすると、彼は私の頭を撫でてきた。顔を上げると、彼と目が合う。



「私、子供みたい?」

「ふっ」

「何?」

「いや、名無しさんらしいな。」

「…どういう意味?」



頭の上に疑問符を浮かべていると、彼はまた「ふっ」と笑った。意味がわからない腹いせに、彼の腕を掴む手に力を込める。



「子供みたいなのもお前らしいってことだ。」

「遠回しに餓鬼臭いって聞こえるよ?」

「まぁ、間違いではないだろ?」

「…そうかもしれないけど。」



拗ねてみせればまた彼に笑われた。そこが子供っぽくて餓鬼臭いんだろうなってことくらいわかってるけど、どうしようもない。



「気にするな、そこが好きだから。」

「ありがと。私も蓮二好きだからね?」

「わかってる。」

「ふふっ」



淡々と言い返す彼に笑みで返せば、彼も微笑み返してくれて。お互いに暫く笑った後、溜息一つ。すると彼は突然、自分の鞄を開けて中を漁るように仕出した。



「忘れていた。」

「あぁ、明日でも良かったのに。」

「思い出した時に渡す方が良いと思ってな。」



そう言いながら彼が私に手渡したのは、木陰で読んでいたミステリーで。受け取って鞄にしまい、また彼と手を組む。



「そういうとこしっかりしてるよね。」

「普通だと思うが?」

「そうかもしれないけど、私よりしっかりしてることは確かだよ。」

「まぁ、そうだろうな。まぁ、そこが悪いとは思わないから安心しろ。」



ありがとう、そう返せば彼は「ふっ」と笑う。それがどういう意味かなんて私には到底わからないけど、掴んでいる腕から温もりと愛おしさを感じるからそれで十分。





(出来るだけ早く返すね。)
(期待しないでおく。)
(少しは期待してよ。)
(少し、な。)
(もう…!)


20100108.闇†風

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