立海ぶっく
□彼も所詮人間
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「すごいね、雪。」
「そうじゃの。」
「去年はこんなに降らなかったよね。」
「じゃが、寒いけぇそんなに降らなくてもよか。」
雅治の家に遊びに来た私は、暖房で暖かい部屋の中から外を見ている。来るときは降ってなかった雪が、今はちらほらと降ってきて。窓を全開にして外へ手を伸ばす。
「冷たいね」
「当たり前じゃろ」
「雅治も冷たい!」
「俺は冷たくなか。とりあえず寒いけぇ窓閉めんしゃい。」
「はーい。」
窓を閉めると、すぐに部屋が暖かくなる感覚がした。すると身震いする私の手を引っ張って、雅治は自分の体の中に納める。重たいけど暖かくて、少し寄り掛かったら強く抱きしめられた。
「お前さん、重くなったのぅ。」
「それ女の子に言っちゃいけないと思うんですけど。」
「ククッ」
「笑うなー!」
軽く腕を殴れば、また笑って「暴力的な女は嫁に行けないぜよ?」なんて言ってきた。何で雅治はいつもいつも意地悪なんだろう。
そういえば、私達はあれから何も変わってない。四国に居たときも、雅治と一緒にこっちに来たときも、私達は変わらずこういう関係。
「まぁそういう時は俺が貰っちゃるけぇ、安心しんしゃい。」
「…バカ」
「バカとは酷いのぅ。」
小さい頃から何回もそう言われてたから何も思わなかったけど、よく考えればそれは“告白”で。バカって言いたいのは雅治じゃなくて、私に対して。
「本気?調子に乗っちゃうよ?」
「別に構わんぜよ。」
「…だったら初めから素直に言ってくれれば良かったのに。」
「言ったけど流されたんじゃ。」
え?と振り返ると、私の長い髪の毛が雅治の目に入ったらしく、雅治が痛そうに目を抑えていた。「ごめん」と反射的に言えば、苦しそうな大丈夫が聞こえてきた。
「次やったらお前さんの髪切るぜよ…」
「ごめんなさい。で、いつ私が流した?」
「小学ん時じゃ。」
「覚えてませんが。」
「キスもしたじゃろ。」
言われた瞬間、記憶がまさに走馬灯の様に蘇って。そういえば小学生の時にキスされたことがある。でもそれは、小さい子供同士のちょっとした遊びみたいなものだと思ってた。
「そんなの、わかるわけないじゃん。」
「俺は大真面目じゃったのに、お前さんが急に謝って帰ったんじゃろ。」
「よくそこまで明確に…」
「辛い思い出は忘れられんもんナリ。」
そんな私が悪いみたいな言い方しなくても良いのに、と言いたいところだが、これは私が明らかに悪い。雅治がそんなに本気でキスしてきたなんて、今の今まで全く知らなくて。
「ごめん…ね?」
「ちょっと可愛く言ってみても雅治くんの傷は癒えないぜよ。」
「ちっ」
「舌打ちしなさんな。」
折角可愛く謝ってみても雅治には通じないらしく、舌打ちのお仕置きなのか、こつんと一発殴られた。お父さんみたい。
「じゃあどうしたら雅治くんの傷は癒えるのかな?」
「名無しさんが俺と付き合えば万事解決じゃろ。」
「…え?」
「こんな良い男、そうそう居ないぜよ。」
どこが良い男?立海にも沢山良い男居るよ?なんて、言いたいことはいっぱいあったのに、私が言ったのはただ一言で。
「うん」
「本気にするぜよ?」
「それ、私さっき似たようなこと言った。」
「プリッ」
雅治はそう言うと腕に力を込めて、私を強く抱きしめてきた。「苦しい」そう言っても離してくれなくて、腕を叩けば更に強まる力。
「何なの」
「今すぐ雅治くんの深い傷を癒して欲しいんじゃが。」
「それは、その…」
告白しろって意味、そんなことわかってるじゃろと言わんばかりの沈黙が流れる。終いには早くしろという意味なのか、腕の力を更に強めてきた。
「好き…です、はい。」
「そんな言い方じゃと癒えないぜよ。」
「じゃあどんなんだったら言いわけ?」
「名無しさん、愛しとうよ。」
「っ、」
バカだった。そんなに目を見て真剣に言われるなんて思ってなくて、急に心臓が煩く音をたてはじめる。恥ずかしいから離れて欲しいのに、雅治は離れる気配なし。
「…愛しとう」
「っ、急に方言に戻すのは反則ぜよ…!」
「そんなの聞いてないもん。」
緩められた腕から抜け出すように雅治の顔を見れば、滅多に赤くならない雅治が耳まで真っ赤にしていた。
彼も所詮人間
(ところで、また髪に攻撃されたんじゃが。)
(き、切らないで…!)
(お前さん次第じゃ)
(っ!)
20100101.闇†風