立海ぶっく

□好きなのは、
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「はぁ、」

「溜息つくと幸せ逃げるぜよ。」

「煩い!」

「痛っ!叩きなさんな。」

「ふん!」



意地悪な雅治を軽く睨んで、あたしは机に伏せた。こんなんでも腐れ縁な幼馴染みだから困る。しかもあたしの事を馬鹿にしやがって。今もそう、あたしが想いを寄せるブン太と部活が一緒で仲が良い雅治は、それを理由にあたしをおちょくる。



「あ、ブンちゃん」

「嘘つき馬鹿治」

「嘘、ついとらんぜよ」

「は?」



言われて顔を上げれば、そこには赤髪の彼。目が合ってドキドキしてるあたしの横で雅治がククッと笑うもんだから、パンチを一発食らわせる。そうすればニヤリと笑う雅治、それから苦笑するブン太が目に映った。



「お前等、すっげー仲良いよな。何っつーか、いつも一緒だし。」

「それはただの腐れ縁っていうか…」

「付き合っちゃえば良いんじゃねーの?」

「っ、」



冗談半分。そんなことはわかってるけど、笑えない。笑いたくても笑えなかった。『好きじゃない』そう言われてるような錯覚。本当にそう言われたわけじゃない、なんて自分に言い聞かせても顔が引き攣って。



「…そうだね、」

「ちょ、な、何で泣きそうになるんだよぃ!」

「ブンちゃんが虐めたんじゃろ。」

「ブンちゃん言うな!っつーか虐めてねぇって!」

「じゃあ何で名無しさんが泣くんじゃ。」



ぽんぽんとあたしの頭を優しく叩くように撫でる雅治は、ブン太に向けて意地悪顔をする。一方でブン太は雅治を一度睨んでから、わけがわからずも謝ってきて。そんなんでこの悔しさとか悲しさが晴らせるわけないのに。



「別に、泣いてないから。」

「お前さん、どこ行くんじゃ」

「どっか」



立ち上がって、行く宛てもなく教室を出る。雅治がブン太に「お前さんが虐めた」だのなんだの言ってるのが聞こえたけど、気にも止めずにただただ歩いて。
気が付けばあたしは屋上のフェンスにもたれ掛かって、何も考えずに空を眺めていた。少し体勢を変えると同時に、フェンスがカシャンと音をたてる。頭を冷やして考えてみれば、あたしの行動はすごく馬鹿みたい。違う言い方をするならば『滑稽』。



「ばっかみたい…」



屋上から丁度見えるグラウンドに視線を落として、どっかのクラスがやっているサッカーを見学。プロの試合じゃあるまいし、大して面白いことはないんだけど、何となく。

雅治と付き合えば良いなんて耳にタコが出来るくらい聞いたし、ただの幼馴染みだって口が酸っぱくなるくらい言った。ずっとずっと、こうなるんじゃないかって思ってたけど、望んでいたわけじゃない。好きなのは雅治じゃなく、ブン太なのに。



「やっぱりここじゃったんか、名無しさん」

「……何で、」

「探しに来てやったんじゃ、感謝しんしゃい。」

「………」



背中に手を置かれるまで気付かなかった。あたしの後ろには雅治が居て、口角上げてあたしを見ていた。この顔、何度殴ろうと試みたことか。一度も当たったためしはないけど。



「凹んどるんか?」

「…だって、」

「別にフラれたわけじゃないじゃろ。」

「そうだけど、フラれたも同然でしょ。」



「そうでもないんじゃなか?」言われて、それからすぐに視界が暗くなった。何をされてるかなんて、わからないはずがない。唇に不思議な感触、キス、されてる。

でも、



「な、何で…!」

「好きだからに決まってんだろぃ。」

「意地悪!馬鹿馬鹿馬鹿!」

「キスするまで気付かなかった名無しさんが悪いんだっつーの。」

「…………」



…違う。
キスされた瞬間にそう思った。好きな人と幼馴染みの匂いの違いくらい、気付けないはずがないでしょ?ブン太が好きなグリーンアップル味のガムの匂いが、キスされた瞬間にあたしの鼻を通り抜ける。

変装を止めたブン太は白い歯を出してニッと笑って「天才的だろぃ?」なんて言うもんだから、あたしも吊られて笑って頷いた。キスされるまで全然気付かなかったのは確かだし。



「そんじゃあ、」

「っ!」



「ちゃんと『俺』でキスしてやっから、黙って目ぇ閉じてろよ。」耳元で囁かれる言葉にびくつきながら、あたしは言われるがままに目を閉じた。


好きなのは、
グリーンアップルな君。



(あ、もう仁王と学校来んなよ!っつーか俺が迎えに行ってやっから!)
(うん、ありがと)



2010よろ企画/20100322.闇†風

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