その他ぶっく

□受取希望人
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作ってから何回も何回も味見をしたから、あたしの味覚が相当狂ってない限り味は大丈夫だと思う。けれど、味がどうのこうの以前に、彼はあたしのチョコレートを受け取ってくれるだろうか。侑士君はモテるから、高いお店のチョコレートとか貰ってるだろうし、あたしなんかより料理が上手な人からのチョコだって貰ってるんだと思う。そんな人が、いくら友達と言えども、チョコレートと生クリームを混ぜて固めただけの、つまらないトリュフなんて貰ってくれないかもしれない。



「おはようさん。」

「おっ、おおおおはよう!」



不意に背後から聞こえた声に反応して、咄嗟に手に持っているチョコレートを机の中に押し込んだ。気付かれたような気がするけど、何も言ってこないから偶然見えなかったらしい。侑士君の後ろという奇跡的なこの席である限り、チョコレートに気付かれることは暫くないと思う。



「随分と“お”が多いんちゃう?」

「そ、そんなことないよ!」

「まぁえぇけど。せや、今日バレンタインやんか、朝からチョコレート持った女の子達に囲まれて大変やったんやで。」



なんて思ったのが間違いだった。侑士君の後ろの席ということは、侑士君が後ろを向いて話しかけてきたら逃げる場所がない。そんでもって侑士君は勘が鋭くて、あたしは顔に出やすいタイプ。ばれるのは時間の問題だと思う。挙句、自分のバレンタインエピソードなんか始めちゃって、流石関西人っていうか何ていうか、とにかくエンドレストーク。



「囲まれたと言えば、小学校の時も仰山貰たで。クラスの女の子だけやのぅて隣のクラスやったり違う学年の子やったり、違う学校やけどテニスで知り合った子やったり。」

「へ、へぇ……」

「せや、この間の練習試合の時も他校の子から突然“受け取ってください”とか言われてもうて、びっくりしたわ。練習試合の帰りにチョコ抱えとるなん、めっちゃ恥ずかしかってんで。」

「そ、そうなんだ……」



何で、侑士君へのチョコを机の中に隠した状態で、侑士君のバレンタインエピソードなんか聞いてるんだろう、あたし。よくよく考えたら、何なの、この光景。っていうか、完全に渡すタイミング失っちゃったんだけど、どうすればいいの?もうかれこれ10分以上話してるのに、今更“チョコレートなんだけど、受け取ってくれる?”とか言えるわけがない。



「せやけどな、こんなに仰山チョコレート貰っても、俺の心は満たされへんねん。何でやと思う?」

「は?」



突然訳の分からない質問を振られて、凄く態度の悪い返事をしてしまったせいか、侑士君に苦笑いのようなものを向けられた。けれどすぐに表情を元に戻した侑士君は、不意にあたしの机の方を指差す。ふと、どういうことかと考えてしまったけど、どう考えても例のブツを指差しているようにしか見えない。
終いには「チョコレート隠しとるやろ?」なんて素敵ボイス(あたし的に。)で囁かれちゃって、仕方なくソレを机の上に。
どく、どく。それと侑士君の心の満ち欠けがどう関係するのかはわからないけれど、そんなことを考えられないくらいに、今の状況に緊張している。この侑士君に、今、チョコレートをあげてるなんて。



「それ、誰にあげるん?」

「え、えっと、これは、その、」

「えぇな。名無しさんちゃんからチョコもらえるなん。」

「それってどういう、」

「仰山チョコ貰とるくせに、ずっと片想いしとる子からは貰えてへんねん、俺は。」



どくん、と心臓が跳ねたような感覚。
侑士君が真剣な目であたしを見て、けれど口元は弧を描いていて。差し出された彼の右手の上に、あたしは恐る恐るソレを置いた。そうすればニコリと笑う侑士君に、またしても心臓が跳ねる。



「自分、顔に出やすいで。」

「な、何が……」

「俺が来た途端に顔赤うして、机に手突っ込むなん、期待しろて言うとるようなもんやで。ま、そういうとこも可愛ぇけどな。」

「っ!」

「顔、真っ赤やで。」



言いながら笑って、あたしの目の前でチョコレートを口に入れた侑士君は、満足げな表情で一言。「甘いわ。」と。


受取希望人



(20120221.闇風光凛)バレンタイン企画

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