その他ぶっく
□違います、照れてません
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「亮ちゃん誕生日おめっとー!」
朝一で彼女から聞いた台詞はおはようなんかじゃなくて、年に一日しか言われない祝いの言葉だった。「ありがとな、名無しさん」なんて返せば、名無しさんは顔とは裏腹に男の俺でも苦しいと感じるくらいの力で抱き着いてくる。それはそれで可愛いけど。
「あ、そうだ!」
不意に、何かを思い出したらしく、俺から離れて鞄をごそごそと漁りだしたかと思えば、名無しさんはニヤリと不敵な笑み。その『期待してほしい』と言わんばかりの楽しそうな笑みに、まんまと騙されてみても悪くないんじゃないか。そんな考えが頭を過ぎったのと同時に、口元が自然と緩む。今の俺の顔はきっとすっげー激ダサ顔なんだろうけど、今日くらいはそんなこと構わない。
「コレ、どうぞ!」
「おう、サンキ、」
「それからコレとコレとコレと…」
………完全にサンキューのタイミングを逃した。
まさか手に持ち切れないほどプレゼントがあるなんて思わなかったし、1つ1つ出してくるなんて思いもしないし、全部駄菓子だし。床に落としたり転んだり、なんて激ダサなことをしないようにゆっくりとプレゼントを机に置く。
「すげぇ量だな。」
「本当は亮ちゃんへの愛情分買う予定だったんだけど、それじゃあこの世の駄菓子全部買っても足りないから諦めた!」
「食えねぇっつーの。」
「あ、そっか!」
「ったく、ちょいダサだぜ。」
言いながら俺は早速、駄菓子の消費活動を始めた。この調子だと今日中に食べ切るのは無理そうだけど、だからといって誰かにあげようとも思わない。ゆっくり、俺一人で消費する。
「あたしね、亮ちゃんのことすっごくすっごくすーっごく好きだからね!」
「あ、あぁ。」
「本当に本当に好きなんだよ!」
「あ、お、」
「『俺も好き』でしょ?わかってるよ!亮ちゃん照れ屋だもんね!」
思わず手に持っていた駄菓子を落としそうになったのは、決して名無しさんが言ってることが図星だったとかじゃなくて、駄菓子が持ち難かったから偶然。なんて自分に言い訳してる俺、激ダサ。
違います照れてません
(100929.闇†風)