その他ぶっく
□壊れかけの、
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「名無しさんせんぱーい!」
部活が終わり、マネージャーの仕事である部誌を書いていると、突然遠くから声が聞こえて。見れば後輩の桃が、遠くから手を振って走ってきた。
「あ、桃。お疲れ様。」
「ほんっと手塚部長鬼っすよー!」
「仕方ないよ、手塚だもん。」
「先輩も結構鬼っすね…」
部室に入ってすぐ倒れ込む桃の肩にタオルをかけてあげると、桃はタオルに顔を埋めながらそう言う。今日も練習は結構ハードで桃としては不満たっぷりらしいが、手塚の前では言えないからここで愚痴を零すのだ。
「でも桃、頑張ったじゃん。」
「頑張らないと乾汁っすもん!あんなの飲むくらいだったら死ぬ程走らせる部長の方がマシっすよ!」
「まぁ乾汁は死にかねないからね…」
ニヤッと笑って見せると、桃の顔が引き攣るのがわかった。そこまで怖い表情をするつもりは無かったんだけど、予想以上に怖がられてちょっとショック。
「ところで名無しさん先輩、これから暇っすか?」
「予定入ってる。って言いたいところなんだけど、すごく暇なんだよね。」
「いや、何か…聞いてすんません。」
暇?なんて聞かれると、彼氏も居なくて超暇人な私を馬鹿にされてるような気分。まぁ桃はそういうつもりじゃないんだろうけど、少し睨んで見せただけで謝ってくる桃が面白い。
「で、暇だけど何?」
「もし良かったらこれから何か昼食いに行きません?」
「…私に桃の昼を付き合えと?」
「だ、ダメっすか?」
「いや、全然大丈夫だけど。」
大丈夫だけど、桃のあの暴食を見ながら今日の昼を過ごすと考えると少し怖い。だからって桃の食いっぷりが嫌いなわけじゃないし、桃からの誘いを断りたくない。
答えると桃が嬉しそうにガッツポーズしたのが見えて、私も心が弾む。期待、しちゃうくらいに。
それから部誌を書くのやら片付けやらを終えた私は、やっとのことで帰る支度をして。腹減りでへたってる桃を連れて、いつものファーストフード店に入った。
「だあー、腹減った!」
「も、桃!小さい子みたいなことしないでよ!恥ずかしい!」
「だって名無しさん先輩が遅かったから、俺もう限界なんすもん!」
「ごめんごめん!」
入るなり大きな声てそう叫ぶ桃を必死で静止させて、それぞれ注文する。が、桃が呪文みたいな言葉を唱え始めて。「何言ってんの?」って聞けば「何って注文に決まってるじゃないっすかー!」なんて笑顔で返されたから、私にはもう何も言い返せない。
「桃、食べ過ぎないようにね…?」
「大丈夫っすよ!こんなんじゃ物足りないくらいっすから!」
大丈夫、って言われても、何がどう大丈夫なのかさっぱりわからない。というか、根本的に大丈夫じゃないと思う。まぁ、桃がとても美味しそうに楽しそうに食べる姿を見ていると、そんな考えはすぐに消えて無くなったけど。
「あ、言っておくけどお金貸さないからね?」
「えー!たまには可愛い後輩に奢ってくださいよー!」
「せめてもう少し食べる量が少ないんだったら考えたけど、私の倍以上食べてる人に奢りたくないよ…。」
「ちぇーっ、ケチっすね!」
「喧嘩売ってるのかな?」
冗談半分で言えば、土下座しそうな勢いで謝ってくる桃が笑えた。流石に土下座しなかったけど。っていうか、桃にとって私はどんな扱いなんだ。さっきからちょっとふざけて怒ればすぐに謝ってきて、可愛いから良いんだけど。
「あ、桃!そのグラタン食べたい!」
「良いっすよ、はい。」
「ありがと!」
「って、ちょっ、食べ過ぎないでくださいよっ!?俺のなんすから!ってか俺のフォーク!」
えへへ、と笑って見せれば、桃は溜息をつく。それから呆れた顔して「名無しさん先輩の鈍感女ー」なんて言われて。言い返そうとしたけど言い返せなかったのは、桃が突然キスなんかしてくるから。
「なっ、」
「ふ、フレンチキスっすよ!」
「日本人なんですけど!」
頭のネジは突然飛んでいったみたいで、顔を真っ赤にして言い訳を並べる桃。やっぱり期待、しても良いのかな?なんて胸が弾む。
「好き?」
「はい!」
「私も好き、」
壊れかけの、
(グラタンがね。)
(えぇっ!?)
(ふふっ、冗談冗談)
20100108.闇†風