四天ぶっく

□頭下がる
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素直やないっちゅーのは、誰よりも俺自身が1番ようわかっとるつもりや。せやのに素直になれへんのは、もしかしたら俺がどこぞのヘタレ先輩よりもヘタレやからかもしれへん。



「おはよう、財前くん。」

「おはよーさん。」



ほんまは財前くんとかそない堅苦しい呼び方せんと、光、て呼んでほしいのに、そないなことも言えへん俺はただ挨拶を返す。わかっとる。そうやって、俺が返事をすれば名無しさんが俺に「冷たい」と言わんばかりの顔をすることくらい、ようわかっと
る。

ほんまは冷たく接したいわけちゃうし、寧ろもっと気軽に話し合えるような仲やったらえぇなって思っとるくらいやのに。いつからこない女々しい奴になったんやろって、本気で考えてしまう俺、ほんま女々しいわ。



「財前、部活の連絡なんやけど、」



すると、不意に部長と謙也さんが部活の連絡やら何やらで教室の後部ドアから顔を出して。ほんの少しむしゃくしゃしとった俺が無視してやれば、2年の教室やっちゅーのにずかずかと入ってきた部長と謙也さんに軽い拳骨を食らわされた。



「先輩を無視するとはえぇ度胸やな、財前。」

「先輩やと思ってないんで。特にそこのヘタレ。」

「ヘタレちゃうから聞こえませーん!」

「ヘタレ死ねば良い。」

「ヘタレ死ぬってなんやねん!意味わからへんけど怖っ!」



無駄に男前な部長と無駄に煩いヘタレ謙也さんのせいで俺ら3人にクラス中どころか廊下からの視線が集まる。勿論、クラスメイトである名無しさんもこっちを見とって、俺は理不尽な恥ずかしさに包まれた。あぁ、最悪やこの人ら。



「とりあえず用無いんで帰ってください。」

「アホか。こっちが用あるからわざわざ来たんやろ。」

「ほなはよ用件言って帰ってください。」

「どんだけ俺ら邪魔者扱いやねん。」

「邪魔なんやし、しゃーないやないっすか。」



言えば、2発目の拳骨。それに答えるように、クラスメイトからの静かな笑い声が聞こえて。あぁイライラする。そう思いながらウザったい先輩らを軽く睨めば、溜息をついた部長が用件をさっさと伝えて帰って行った。初めからそうせぇやドアホ。すると突然、自分のいるべき場所に戻っていったはずの部長が出て行ったドアから顔だけを覗かせてきて、思わずびくりとした。



「言い忘れたんやけど、」

「何すか。」



出来るだけさっさと会話を終わらせたい俺は、短く返事をする。そうすれば部長はニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて。



「はよ告らんと取られてまうで、名無しさんちゃん。」

「っ!」

「くくっ、ビンゴやったみたいやな。まぁ頑張りや。」



結婚式も葬式も絶対出てやらへんし呼んでやらへん、そう思うた。

ふと名無しさんを見れば、何も言わんとただ俺をガン見しとるから、俺も尚更何を言うたらえぇんかわからない。せやけどこないな状況なんやから何や言わんとあかんし、俺かてそれなりの男気を見せたらなあかん。



「名無しさん、」

「は、はい…」

「YESかNOしか受け付けへんで。俺と付き合う気、あるか?」



聞いた瞬間、時間がスローモーションで進んでいるような錯覚に囚われた。

もっと色々と質問のバリエーションはあったはずやのに、何でこんな切羽詰まった質問をしたんか、俺にもようわからへん。もしかしたら短気な俺が早く答えをもらいたかったのかもしれへんし、ヘタレな俺が勢いに乗っかりすぎて言ってしもうたんかもしれへん。どちらにせよ、言ってしもうたもんはもうどうにもできへんけど。



「YES」



それからしばらくの沈黙があってやっと口を開いた名無しさんから聞こえてきた声は、今にも消えてしまうんちゃうかっちゅーくらい小さい音やった。


あぁ、
暫く頭を上げられへん



(101110.闇風光凛)

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