四天ぶっく
□プレゼント
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酷いんだ。
折角あたしが彼氏である光の誕生日のためにプレゼントを選んで毎日毎日悩んでるっていうのに、最近の光は部活だのなんだのって理由をつけて一緒にお弁当すら食べてくれない。あたしとしては光の欲しいものを聞き出して、誕生日には幸せなプレゼントを贈ってあげたいのに。
「あたしの話聞いてる!?」
「聞いとるって。」
「じゃああたしさっき何て言った?」
「……りんご。」
「言ってないし!っていうか何なの、りんごって!」
もう、携帯ばっかり弄って!いつもみたいにブログ更新?だったら早く終わらせてよ!ブログなんかじゃなくて、知らない人からのコメントなんかじゃなくて、今目の前に居るあたしの相手をしてよ!
なんて、言えるほどの度胸をあたしは持ち合わせていない。それに光にだけは絶対嫌われたくないし。でもやっぱりムカつく!
「光ーっ!」
「………」
「がーっ!」
「………」
そんなに完全無視されたら、いくらポジティブ思考をしようと常日頃から努力してるあたしだって、悲しくなるに決まってる。それを光はわかってないのか、もしかしたらわかってて意地悪してるんじゃないかって思えるくらい完璧で完全な無視。
別にこれが普段みたいにあたしの急な押しかけで光が全然相手してくれないっていうんだったら、あたしにも責任があるわけだし仕方がないとは思う。けど、今日は違うのに。光が、自分自身の誕生日だからってあたしを家に呼んで一緒に過ごそうって話を持ち掛けてきたってのに、あれはあたしが勝手に作り上げた妄想の世界?
「名無しさん、」
「ん、何!?」
「暑いから離れろアホ。」
まさか、そんな。
離れろだなんてそんな冷たい言葉、光が言うわけない。これこそあたしが勝手に作り上げた被害妄想なはず!
…なわけなくて、急に名前を呼ばれて嬉しくなったあたしの笑顔は、光の鋭利な言葉のせいで不覚にも崩れてしまった。だって、酷すぎる。あたしは光が大好きで大好きで仕方ないから、暑かろうが、ベタベタして気持ち悪かろうがくっついて愛情表現してたのに。
「っ、ひか、光のばかぁ!」
「…はぁ、泣き虫。」
「だって、ひかっ…意地悪するんだもん!」
「アホか。意地悪しとらんし。」
大きく大きく溜息をついた光は、パチンと閉じた携帯をベッドの方に放り投げてあたしを見た。かと思えば、額を強めに小突かれて涙目になったあたしをくっくっと意地悪く喉で笑う。そこが意地悪だって言ってるのに、何で意地悪じゃないって言い張れるのかわからない。そこが光らしいんだけど。
「…飲み物持ってくる。」
「はぁ!?逃げるの!?」
「何でそうなんねんアホ。誰かさんが暑いっちゅーのに抱き着いてきたから喉渇いたんや。」
「………あたしも飲む。」
「はいはい。」
くそう、悔しい。何でこのタイミングで飲み物?とか、普通もっと良いタイミングで行かない?とか色々言ってやりたかったのに光に一言言われるだけで、じゃあ仕方ないかって許しちゃうあたしがすごくすごく悔しい。
…それにしても、帰ってくるの遅くない?飲み物取りに行くのなんて普通30秒くらいでしょ?っていうか彼女が居るんだから10秒でも良いくらいなのに!なんて思ってると不意に携帯のバイブが鳴って、予想外に響いたもんだからあたしは驚いて肩を揺らした。
「…光?」
ディスプレイにはさっきまで一緒に居たはずの“財前光”の文字が並んでる、けれど光の携帯はさっき光が投げてからずっとベッドの上。もしかしたら送信予約っていう技を使ったのかもしれない、とか考えながらもとりあえずメールを開いて内容を確認。
「…!」
それを見た瞬間あたしは思わず部屋を飛び出して、今この時間をどうにか潰しているであろう光の元に駆け付ける。そんなあたしを見た光は一瞬目を大きくして、それから咄嗟に顔を反らした。
「彼女放って甥っ子と遊ぶなんて酷くない?」
「別にえぇやろ。」
「本当はあんなメール送った自分が恥ずかしかったからでしょ?」
「…うっさい。」
クサイ台詞だとか真面目な言葉だとかを吐くのはあんまり好まない性格のはずの光だけど、メールに書いてあった言葉はクサくて真面目過ぎてグダグダで。だけどそんな光のメールだって、あたしにとってはカッコイイ光の1つ。
少し笑ってそう言えば顔を赤くする光をあたしはとても愛しく思った。
プレゼント
(本当はあたしがプレゼントあげるはずなのに、あたしが貰っちゃった!)
(アホか。その分プレゼント貰うで。)
(そんなの聞いてないし…!)
(20100727)