その他ぶっく
□devote
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この人は、絶対に何かズレていると思う。確かに金持ちでお坊ちゃま生活をしているだけあって、金銭感覚が全然違う。が、彼は根本的に何かが違う。
「今日はクリスマスだから、部活を早く切り上げてクリスマスパーティーをする!」
「えぇな、パーティー。」
「マジマジ嬉Cー!」
部活の初めにそう言えば、部員達は跳びはねて喜び出す。何故なら彼が言うクリスマスパーティーというのは、部員全員が参加しても余裕があるくらい大きなパーティーで。勿論部員だけでなく、有名企業の社長さんやらも“一緒に”パーティーをするのだ。
「あぁ、調子狂いそう…」
「好い加減慣れろ。お前はこれから数え切れないくらいパーティーに参加するんだからな!」
「いつからそんな話になった?」
「いつからも何も、生まれたときからお前の相手は俺しか居ねぇんだよ!」
立食パーティーに参加しながらそんな話をするもんだから、周りの社長さん達にも私は有名らしくて。ただでさえも部員達が食べ物にがっついて恥ずかしいってのに、有名なんて尚更恥ずかしい。
「名無しさん、こちらが今度から跡部グループと契約する笹本さんだ。スポーツ用品専門だからきっと世話になるだろうし、お前も挨拶しておけ。」
「初めまして。」
それから定型文とも言えるくらいにいつもと同じ挨拶を何回もしては、知らない会社の社長さんに名前を知られていく始末。因みに私は社長さん達の名前なんて数人程度しか覚えてない。
「景吾、疲れた…」
「アーン?これから2次会もあるってのに、今から疲れてどうすんだ。」
「そんなこと言われても、」
疲れたもんは疲れたし。そう悪態つけば、景吾からは呆れの溜息。そんなわかりやすく溜息つかなくても良いのに、なんて思って居ると突然景吾はマイクを手に取って。
「氷帝テニス部員、お前等の美技を見せてやるんだ。踊れ!」
「なっ、跡部!?」
「やったー!皆で踊ろー!」
「宍戸さんも踊りましょうよ!」
「あぁ、そうだな。」
何を言い出すのかと思えば、突然“踊れ!”って言うもんだから一同騒然。それでも音楽が流れると、自然とそういう雰囲気になって社長さん達まで踊りだすから凄いと思う。
「これなら少しは気が楽になんだろ。アーン?」
私がズレていると思うのはまさにこんなところで。簡単に言えば、動かすものが大きすぎるのだ。私が少し抜ければ良かっただけの話なのに、私のために周りを動かしてくれて。
「凄いね、景吾は。」
「俺様だからな!」
「うん、その自意識も凄い。」
多くの人が踊るのを見ながら、私は窓際に腰掛けてノンアルコールシャンパンに口をつける。ダンススペース上にあるミラーボールがチカチカするけど、少し遠いここから見ればそれはすごく綺麗に思えて。
「ジローが起きてるなんて珍しいよね。」
「はっ、それだけ俺様のパーティーが楽しいって事だろ!」
「まぁそうなんだろうけど、」
「あん?」
私が言いたいのはそういうことじゃなくて。結局何をやっても、例えばさっきみたいに立食パーティーで突然踊らせたりしても、彼なら上手くいくことが凄い。今だって突然だったにしても、皆楽しんでるみたいだし。
「いや、何でもない。」
「アーン?」
「ありがと。」
「意味わかんねぇ…」
「へへ、わかんなくて良いの!」
笑って見せれば景吾にコツンと軽い拳骨をされて、それから微笑み返されたから私は不覚にもドキッとしてしまった。その笑顔は反則技だと思う程綺麗で。
「あぁ、そういえばお前に渡すものがある。」
「うん?」
ちょっぴりドキドキしている私に、景吾はゆっくりとポケットから取り出したモノを差し出した。ゆっくりでじれったいから、その分すごくわくわくする。が、ポケットから出した手には何も持っていなくて、わくわくが冷めていく感覚。
「何も持ってないじゃん!」
「よく見ろ!」
「…あ!」
だけど景吾の手を良く見てみると、小指には明らかに女物の指輪があって。景吾はそれを外すと、私の手を取ってそれを右の薬指にはめる。サイズは勿論ピッタリで。
「左手にはめるのは結婚するときに、もっと良いのを買ってやる。」
「けいご、」
「Merry Christmas.」
中学生がこんなに高い指輪、なんてところも庶民的な私にとっては“ズレている”ところではあるんだけど。それほど私に全てを捧げようとしてくれる景吾が、やっぱり好きなんだと実感する。
devote
(ついでにキスもするか?)
(流石に恥ずかしいから!)
20091226.闇†風