しのぶ

□食満と
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「バレーボールはあって、何でボールペンは無いんだろう…。」
「はぁ?」
「ううん、なんでもないです。付き合ってくれてありがとう、食満君。」
「…まあ、なあ。」
 
 自前の筆記用具を学園長に頼まれ説明をしたことが事の始まりだった。ペンケースに付いていたチャックをひとしきり開けたり閉じたりして楽しんだ学園長はその中身、特にボールペンやマジックに深い興味を持たれていらっしゃった。

「千尋ちゃんよ。」
「はい?」
「…思いついた!」
「ええ?」
「この『ぺん』とやらを作るのじゃあ!!」
「えええ…!?」
「学園長命令じゃあ!!」

 確かに筆と墨よりはマジックその類は持ち運びに優れているだろう。忍者にとって身軽なのは重要だろうし、それぐらいのことで学園にお世話になっている恩が返せるのならと二つ返事で了解したのだ。が、

「よく考えたら、わたしボールペンの構造なんて全然知らなくって、その…。」
「で、試しに分解したら組み立てられなくなった訳ですか。」
「面目ありません…はい…。」

 無残なボールペンの亡骸を愕然と眺め、思いっきり行き詰ってしまってしまった。居合わせた中在家君に相談してみれば、そういうことなら用具委員長の食満留三郎に聞いてみるのが一番。とのことだった。食満君を探して用具倉庫らしき蔵の前で彼を見つけ、近くの木陰で説明をしたところで話は冒頭に戻る。

「…小平太は一緒じゃないんですか?」
「うん?どうして七松君?」
「なんもきいてないんですか。(監視も保護も。)」

早口の食満君に再度問えば「小平太とよく一緒にいるでしょう?」と苦笑された。うん、確かに。でも常に一緒にいるのではないし噂の彼は下級生のアルバイトの手伝いに出かけている。

「ま、駄弁ってないでさっさと作ってみましょっか。綿と細い竹…だった、か。」
「うん。胴体のとこはこれでいいと思う…綿に墨を染み込ませて筒に入れて。」

 わたしの知識ではノック式のボールペン完成は至難の業だ。けれどマジックならいけるかもしれない。その旨を食満君に伝えてマジックの説明をすればあれよあれよと試作のアイディアをいくつか出してくれた。

「男の子ってこういうの上手いですよね。道具用意したり、あれこれ組み立てたり。」
「嫌いじゃねえけど…嫌でも上手くなったというか。」

 そもそもはクソ会計委員長の所為だ何もかも!と声を絞りだしてから食満君ははっ!と我に返り「すいません…つい…。」と漏らしていた。その様子が年下らしくてほのぼのとした気持ちでわたしは作業を続けていた。
さて問題は墨の水分が蒸発しないことや紙と触れる部分、所謂『芯』の素材を何にするか…ペン作成にはまだまだ時間がかかりそうだ。



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