世界樹のお話
□黄昏に捧ぐ
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西日に照らされた爪を、風と翻(ひるがえ)すように避る。
草をえぐり、軸足を捻けたと同時にもう片方を、捌く。視覚全てが残像を帯びて幾筋も流れていく。
血を浴びたように鈍く光沢を放つそれに覚悟と威勢を込めて、赤く輝く切っ先を向けた。
「ここから先へは、行かせない。」
手に馴染んだ細剣は視界を奪う程の獣(けだもの)には只の鉄屑にしか見えないようだった。
彼女はふぅ、と深く吐く。
ギロリと充血した目と荒い息を一心に彼女に向ける。
喰らう、
貪る、
引き裂く、
獣は酷く飢えていた。だから、人里まで降りてきたのだ。泥と草の臭いを纏って。
しかし、ここから先、獣が踏み入れてはならない。
「帰って。まだ生きたいのなら!」
断る。獣の空を割る叫び声が、鼓膜を叩く!
シナプスを震わせ獣は腕を、爪を、振るう!
獲物の肉を逃したそれは、低い唸り声と共に空を裂く。
流れるように得物を捌け、大気に逆らうな。身体から脈々と湧き出る言葉を耳の奥から手繰り寄せた。
柄を持ち、白銀の刃に手を当てる。湧き出るは、潤沢なるマナ。
獣の泥の臭いがする。
刃に、篭めた。
「ジャッジメント。」
一縷の光雨は、風をたぎらせ。やがて訪れた宵に、溶けた。
end
「今日はノルンさんが捕ってきたお肉でお鍋を作りますわね。」
「こんな大物…!腕がなるわ!」
張り切るパニールさんとリリス。
今宵は熊鍋。
因みにディセンダーの今日の職業は魔法剣士でした。