お話
□バッカスに感謝を
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今日は所謂、父親の誕生日というやつだった。最初は何時もより少し豪華な食事会であった。そして父にはアルコールというが用意された、それがまずかった。
そしてものの見事に父はベロンベロンになり、当然だと言わんばかりに父は息子に酒の友を強制した。
「はあっは、はは!もっと、飲まんか!」
彼の名誉の為に言うが、けして彼は好き好んでベロンベロンになった訳ではない。宥めていた父親に首を固定され、開けたてホヤホヤのワイン瓶と濃厚な口付けをさせられただけなのだ。
「気持ち、悪い、」
一刻後、彼は込み上げる物を感じながら目を覚ました。机が随分と高い位置に見え、花飾りが付いた帽子が置かれていたのでどうやら自分は床に転がっているのだろう。あ、父親はまだ飲んでいる。
「…そろそろ片付けないと」
主に食器とか、ベロンベロンの父親とか。
取り留めなく考えていたが彼は違和感にその時、漸く、気が付いた。
「…床が柔らかい?」
思わずガバリと身を起こす。一瞬天井が回転する錯覚に捕われたが目の前の光景の方が衝撃的だった。
「デュラン、大丈夫?」
「…ティア?」
そんな馬鹿な。彼女は今日、此処には居なかったはずだ。(彼女は自分の隣に座っている。おまけに吐息で自分の髪が揺れる程近くに居る。)
「用事で来たんだよ。」
「そう、だったのか。」
彼の疑問を汲み取る様に彼女は答える。いわく、用事で此処に訪れたが二人とも完全に酒精に捕われており、
「僕は、君にからんでしまったんだね。」
自分はひとしきりからんだ後「眠い」と一言呟き倒れ込んだらしい。
勇者にあるまじき行為だと、落ち込む。しかも気になっている彼女にこんな醜態を晒してしまうとは。
「気にしてないよ?デュランだってわざとした訳じゃないんでしょう?」
と言ってくれるが。自分は本当に何をやらかしたのだろうか。彼はますます凹む。
「ひざ枕だってそんなに長い間してた訳じゃないし。」
今聞き捨てられない単語が出た。
「ひざ、ま、くら。」
「うん?」
「ティアがしてくれた?」
「床に寝るのってあちこち痛くなっちゃうし。」
「う、ん」
「デュランが『やるまで帰さない』って。」
「はっ?」
なんとまぁ、酔っ払った自分の大胆なことか。彼の頭にそんな言葉が踊る。
ひざ枕ぐらいならいいや。彼女はあっけらかんと自分の酔った勢いを叶えてくれたらしい。柔らかい床は彼女の膝であったようだ。そして恐らく彼女に他意はない。
ひざ枕。それは男の浪漫である。
「…う、」
「う?」
「うわあああああっ!」
「え、あ、デュラン!?」
ひざ枕。それは同時に、気になる相手であれば特に、羞恥の対象となる。
「僕の馬鹿ヤロー!」
ひとしきり叫び、家から飛び出す。顔が赤い、心臓が早鐘を打つ。もちろん酒精が原因ではない。
川の手前まで来て、がっくりと力尽きた様に膝をついた。
「…何をやっているんだ僕は。」
心中は大いなる後悔と羞恥。それと歓喜。
「…温かかったな。」
日が沈み、月夜の中ぽつりと呟く。青いわね、と言うようにイヌボエグサがさやさやと揺れていた。
end
酔っ払った勢いってスゴイよね。という話。