お話
□何も知らない
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始めは確か、二人で預言書に記されていた歴史を語っていたはずだ。ティアがあれこれと疑問を持ち、自分は彼女の質問に答え、ティアは懸命にその答えをかみ砕いていた。
「ティア…?」
「…ん…。」
自分は今人の大きさで、肩には温かい重みとサラサラと触れる髪の感触を感じている。
「起きてください、ティア。風邪を引いてしまいますよ。」
いつの間にかティアは船を漕ぎ出し、自分の問に一拍置くようになり。今は静かに夢と戯れている。
ここは部屋の中であるが黄昏時は冷える。
「ティア、ティア。起きて、」
肩を軽く揺する。しかしよほど疲れていたのだろうか、彼女はただ小さな寝息を立てていた。
「…困りましたね。」
口でそう言ったものの、その顔はゆるりと破顔している。彼女の温もりは正直離れがたく、心地良い。そしてその吐息はひどく自分の心を波立たせた。
「眠るあなたはさぞ、可愛らしいのでしょうね。」
生憎、自分の瞳は彼女を写すことはない。目が封じられた事実に焦燥感を覚えたのはティアと出会ってからだっただろうか。
始めの頃は見えずとも柔らかな声を聞き、その存在に心癒されていた。それだけで良いと思っていた。
けれども時と共にもっと欲しい、と本能が叫ぶ。
今はこの枷が煩わしい、掻きむしる程に。
「できることなら、この目で」
髪の色も、瞳の輝きも、その微笑みも。
叶わぬ願いと知りながらも、縋る様に絹糸の髪に口付けを一つだけ落とした。
end
話していたら眠っちゃったティアとそんなティアに悶々としてるウル。