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□はじまりの日-A happy new year-
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「お待たせ、神田!」

「遅い。いつまで玄関に待たせる気だ」

「ちょっと寝坊しちゃって…。新年早々、ごめんね。もしかして寒かった?」

「別に大丈夫だ。…ほら、支度が出来たなら出発するぞ」

「うん!あ、明けましておめでとう御座います、神田!!!」

「あぁ…。明けましておめでとう、モヤシ」

真新しい晴れ着を着た彼女は、照れくさそうに微笑んだ。









はじまりの日-A happy new year-










僕ことアレン・ウォーカーと神田ユウは、歳も同じの幼なじみ。家がお隣さん同士で、互いの両親の仲も良い。だから、僕の隣にはいつも彼女がいた。
神田はご近所では名のしれた美少女だけど、その見かけによらずかなり男勝り。頭はそこそこだけど、スポーツ万能。特に剣道に関しては全国トップレベルで、僕は一度も勝った試しがない。小さい頃は、よくチャンバラごっこで泣かされたっけ…。

とにかく、多少の言葉遣いの悪さはあっても、さり気ない優しさ、整った顔立ち、綺麗な黒髪など神田には女の子としての魅力が十分過ぎるほどあった。僕も健全な男の子だから、赤い下地に銀糸で牡丹の刺繍が施された晴れ着姿の彼女に感じないわけもない。ピンクと白の花をあしらった髪留め、後ろに纏められた黒髪、白く滑らかな項…どれも僕の心を掻き立てるものだったが、きっと神田はそれに気付いていない。恋愛には殆ど興味がないようだし、僕も男とか女とか全く関係なく、神田自身が好きだから別に構わなかった。幼なじみで親友の神田。それで十分だった。

「ほら、早く行くぞ。…ったく、初詣前に寝坊なんてするかよフツー。リナリー達が待ちくたびれてるぞ」

「あはは、ホントだね。ごめんごめん」

「本当に反省してるのかよ?全く…。今度時間通りに出てこなかったら、置いてってやるからな」

「えー!ひどいよ、神田ぁー!」

なにがひどいよだ、バーカ!、と言いつつも神田は笑っていた。それにつられて僕も笑う。
きっと待ち合わせの神社は沢山の人で賑わい、混雑していることだろう。人混みの嫌いな神田は顔をしかめるに違いない。だけど、おみくじを引く頃にはまたこうして笑ってくれる。そう思った。









***

「うわぁー、スッゴい行列さー!」

「本当。また並ばなきゃいけないわね」

待ち合わせ場所でラビとリナリーと合流し、四人で参拝を済ませ、おみくじ売場までやってきた僕達。だがここでも人の数は半端ではなく、参拝同様に並ばざるを得なかった。

「あーあ、こんなに並んで大吉が出なかったら最悪さ」

「あれ?ラビの場合、別に大吉じゃなくても恋愛運さえ良ければOKじゃなかったっけ?」

「そんなことないさ、アレン!オレは欲張りだから、全てにおいてパーフェクトな運が欲しいさ。ユウもそう思う…って、あれれ?ユウは?」

「あら?今さっき私の後ろにいたのに…。神田ー?」

「おかしいですね…神田ー?どこですか、神田ぁー!」

キョロキョロと辺りを見回すが、それらしい人物は見つからない。

「もしかして…はぐれちゃったんさ!?」

「僕、探してきます。ラビとリナリーはここで並んでいて下さい。神田が戻ってくるからもしれませんから」

「そうね。わかったわ、アレン君。もし神田を見つけたらケータイで連絡して」

「わかりました!」










***

人混みをかき分け、目を凝らしながら進んでいく。けれど、一向に神田は見当たらなかった。

「神田ー!いるなら返事して、神田ぁー!!」

人目を気にせず呼んでみるが、やっぱり返事はない。こんなことになるなら目を離さず、手でも握っておくんだった。ケータイも繋がらないし、不安は募るばかり。

もう一度リナリー達のところに戻ろうかと思ったその時、視界の右端に探していた姿が入ってきた。後ろ姿だが、見覚えのある牡丹の刺繍の赤い晴れ着にピンクと白の髪飾り。間違いない、神田だ!トボトボと神社の外れに向かって歩いている。

「神田、神田っ!!!」

アレンは流れる人々を押し退け、探し人の名を呼びながら駆け寄った。

駆け寄るアレンに気が付いたのか、ふと神田が振り向いた。

「えっ…!?」

神田が、泣いていた。

「神、田…っ」

驚いて立ち止まったアレンを残し、神田は人混みからは遠い神社の外れの方へ走っていってしまった。

「あっ、…待って神田!」

驚きのあまり出遅れてしまったアレンが神田の後を追う。神田もまた全力で駆け抜けていく。

「神田…、お願いだから待ってよ!ねぇ!」

神田が泣いていた。澄んだ瞳から、大粒の涙を零していた。とても悲しそうに、泣いていたのだ。
神田は小さい頃から、全くといっていいほど泣かなかった。むしろアレンの方が怒られたとか、怪我をした、といってはしょっちゅう泣き、男なら泣くなよと神田に慰められた。

なのに、どうして。どうしてそんなに強い神田が泣いているの?

「お願いだから、待ってよ神田っ!!!」

やっとのことで、アレンは神田の腕を掴んだ。しかし、神田は離せと言わんばかりにもがいた。全速力で走ったせいもあり、せっかくの晴れ着が乱れ、纏めた髪も形が崩れ始めている。

「離せ…っ、離せよ、馬鹿モヤシ!!!」

「離しません!神田が泣いているのに…このまま見過ごすなんて僕には出来ない!!!」

アレンは掴んだ神田の腕を体ごと引き寄せ、抱きしめた。また晴れ着が乱れてしまうけれど、後で直せる。だけど神田の流す涙の理由は今、きちんと受け止めてあげないといけない。

「俺は泣いてなんか…ないっ」

「嘘。今もまだ泣いてるじゃないですか。ねぇ…何か嫌なことでもあったの?正直に話してよ」

「……」

「ね、神田…」

「…モヤシ……、」

アレンの胸に顔を収める神田の声は少しくぐもっていた。

「なぁに?」

「俺…もう…嫁にいけなくなっちまった…っ!」

「そうですか、お嫁さんに………って、はいいっ!?」

あまりの予想外な言葉に、アレンはしばらく固まってしまった。が、言葉の意味を考えて、はっと我に返った。

「お嫁さんになれないって……どういうことなの、神田!?一体誰に、何をされたのっ!?」

ふと、神田が小さく震えているのに気が付いた。だが今のアレンには、それを気遣う余裕はない。

「神田、黙っていたら分からないよ。教えて、ねぇ!?」

「うっ……」

「お願い、神田っ!!!」

「ふっ……うぅっ…」

神田は返事をせず俯いたまま、アレンの胸で泣きじゃくっている。それでも、アレンは神田に答えを迫った。

「神田っ…!」

「知らない奴…だった。…いきなり声掛けられて、でも無視したら…キ、スを…され…た」

「えっ、…」

「本当にいきなりで、全然ワケ分からなくなって…だから…俺…俺っ……!」

「他には…他には何もされなかった?」

「うん…そのまますぐ、人混みの中に逃げたから…、…っ…」

こんな自分は見られたくない、とばかりにアレンの胸の中で必死に顔を隠す神田。一方、アレンは最悪の事態を想像していたのだが、そこまで至らなかったことにほっとした。といっても、内から沸き上がる怒りが治まったわけでもなかった。

「…だから、神田はお嫁さんにいけないの?」

「だって……、こんなの…っ」

初めてを捧げられないなんて。

また一筋、神田の頬を伝った。

ああ、そうか。そうだったんだと、アレンは初めて理解した。神田は誰よりも強かった。でも、それ以上に純粋だったのだ。男勝りだから恋愛とかに疎いのではなく、ただ純粋なだけ。けして、アレンの考えていたような女の子ではなかったのだ。


「…大丈夫だよ、神田」

「…っ!」

腕の力を強めると、神田の体はビクリとこわばった。わかりやすい反応に可愛いな、と思いつつ、優しく抱きしめた。

「大丈夫。そんなこと、無かったことにすればいいだけだから」

「えっ…?」

「ほら、神田。顔を上げて?」

そう言いながらアレンはゆっくりと神田の顔を上げさせた。瞳に溢れんばかりの涙を溜めた神田は、いつになく扇状的だった。

「な、に……モヤシ…?」

「心配しないで。僕が全て消してあげるから…ね、神田」

アレンは神田の頬に手をあて、親指で涙を掬った。そして、そのまま顔を近づけ触れるだけの口付けをした。初めて触れたそれはひどく柔らかく、甘美なものに思えた。

「モヤ……っ、んん!?」

さらに今度は深く口付ける。逃げる舌を絡めながら、激しくはげしく。その度に神田の細い腕が暴れ、アレンの胸を力の限り押す。だが、びくともしない。

「んん、んー…っ!」

神田の頬にあてていた手を頭へとずらし、強く抱え込む。神田はやめてとばかりに全身に力を込め訴えたが、アレンには届かない。

「んぅ…ん…っ」

さすがにこれ以上は苦しいかなと思い、アレンは神田を解放した。案の定、神田は激しく肩で息をしている。

「はぁ、はぁ……な、に……っ?」

「ほら、ね。これで知らない奴からのキスなんて忘れられたでしょ?」

「な…っ!」

「あ。もしかして、まだ忘れるには足りなかったかな?大丈夫、そんなキスなんて忘れるくらい激しく、何度でもしてあげるから」

「え…あ、やっ!もういい!いいからっ!」

「本当に?今ので感触とか消えた?」

「消えた…っ!消えたし忘れた、だからっ…もういい!!!」

「そう、なら良かった」

アレンは笑って、神田の頭から手を離した。神田は先程とは別の意味で、顔を真っ赤に染めた。

「良かったね、神田。これであの忌々しいキスは無かったことになった。と同時に、君の初めては僕になった。だから、神田を僕のお嫁さんに貰ってあげる」

「えっ…!?」

「神田が嫌じゃなければの話だけど、どう?」

「あ…。嫌…、……じゃないけれ…ど」

「なら、決まり!神田は僕のお嫁さんだ」

約束だよ、とアレンは神田の乾きかけた目元にキスをし、そっと頬を撫でた。

「本当に…、本当に俺を嫁に貰ってくれるのか、モヤシ?」

「勿論ですよ、神田。君の初めてはキスも含め、全て僕のものなんだから」

「…モヤシ…っ!」

「でも、モヤシじゃなくてちゃんとアレンと呼んでね。さっ、早くリナリー達のところに戻ろう」

今度は離れないように手を繋いでいきましょう、とアレンが手を差し伸べると、神田は小さく頷いて、ならお前も俺の名前を呼べよ…アレン、と照れくさそうに笑った。

「勿論ですよ、…ユウ」

初めてだけじゃない、これからは君の全てが僕のものなんだ、とアレンは思った。


[新しい始まりは、君と二人で!]





*アレ神嬢の現代パロ。2010年1月31日までフリー。
 

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