ルルカレ

□酔い
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普段なら人の気配など無い、

夜のアッシュフォード学園



簡易設置の照明に照らし出されて、

闇夜に白く淡く、満開の桜の花が浮かび上がる



ひらひらと桜の花弁が舞い散る中、

宴の戯れあう声は、止むことなく響いていた―







酔い、宵







学園内にある桜の中でも、でもとりわけ大きな校庭端にある桜。
アッシュフォード学園のはじまり以前から其処にあるその老木は、最近の暖かく
なりつつある気候と相まって、この世の春を謳歌せんとばかりに枝の隅々まで、
たわわに白い花を咲かせその身をしならせている。
見上げると、すぐ目前に広がる視界いっぱいの花模様。
吸い込まれそうな美しさに、思わず感嘆の声が上がる。
咲き誇るままに散りゆく儚さ故か、…それが我が身に重ねて見える故か、
ただ今夜だけは全てを忘れ楽しもう、逸るような気持を押さえ見上げる先で、
夜風に揺られた花弁がひらひらと、雪のように舞い散っていた。
こうして見上げるのも、今夜限りになるだろう…。
週末からの天気予報には傘マークが踊っていた。



そんな桜の木の下に。
宴もたけなわ、会長率いる生徒会メンバーは全員集っていた。
やいのやいのと談笑する酔いの席。いつもと違う「外」という開放感からなのか、
はたまた地面に転がる空のワインボトルのせいなのか、面々は普段とはまた違う
一面を見せてはしゃいでいる。(勿論、普段と変わらない者もいるのだが)
突然、挙手した藍髪の青年が対戦相手を指名した。指名された金髪の少女は、
髪をかき上げながら、不敵な笑みを浮かべてその挑戦を受け入れる。
おぼつかない足取りながら、おもむろに立ち上がった二人が拳を握り締めて大きく
振りかぶると、周りからは声援と拍手喝采が巻き起こる。
「僕が勝っても、恨みっこなしですからね…」
「そういうことは勝ってから言いなさいっ!」
睨みを効かせる二人はアイコンタクトで相手のタイミングを計ると、意を決して
ごくりと唾を呑んだ。

いざっ、尋常に勝負!

『やーきゅーうぅーすぅーるならー
 こーゆー具合にしやしゃんせー
 アウト!セーフ!よよいのぉ…、よいっっ!!』









「桜祭り」の名の元に催された、全校生徒を挙げてのお花見大会。
ぼんやりと生徒会室の窓から外を眺めていた会長の、ふとした思い付きから始まった
この企画。毎度の事とはいえ、今回は「桜」という超季節限定の催し。
おまけに会長が思いついた時には、既に蕾も綻びかけていた状態で、週末からの
雨の予報もあり…、発案から実行に至るまでのスケジュールはこれまでにない程に
過密と多忙を極めていた。
当然、生徒会執行メンバーは、その準備と設営に駆けずり回るハメになる―。
そんなこんなで祭りは無事に成功したものの、当日ゆっくりと花見すらできなかった
メンバーへの労いもこめて、これまた突如、会長の思いつきでこうして夜桜の席が
設けられることとなった。
初めこそ「綺麗」と夜桜を楽しむ会だったのだが、スザクがこうした宴会の席でする
遊びを知っている、などといい始めたところから話はおかしくなり始めた。
じゃんけんをして負けたら「脱ぐ」(それが嫌な場合は代わりに「飲む」でも可)
日本に古くから伝わる、宴会芸の遊びらしいのだが…。
最初は興味半分面白半分、皆でわいわいと始め、負けても甘酒程度だったものが。
やがて甘酒もなくなり、会長がワインを持ち込み始めたところから、さらに事態は
混沌としたものになり始めた。



先程のじゃんけん勝負に勝った、会長であるミレイ・アッシュフォードはガッツポーズを
決め、負けたリヴァル・カルデモンドは口惜しそうにその場に泣き崩れた。
余裕綽々のミレイに対して、リヴァルの姿は既にトランクス一枚といった状態だ。
嬉々としてグラスに波々ワインを注ぐミレイの姿を、ルルーシュは呆れた表情で見つめる。
一体何人潰せば気が済むのか…。
進められるままにグラスを手に取り、中身を一気に飲み干した後―、
リヴァルは撃沈した。
予想通りの結果に、ルルーシュはこめかみを押さえて溜息を吐いた。
今、この場に正気で残っている者といえばそれはミレイとルルーシュくらいのものだろう。
二人とも制服の上着を一枚脱いだ程度で、さして着衣にも乱れはない。
もともと酒が飲めないニーナ、頑なに脱ぐことを拒み飲み続けたシャーリーは既に桜の
幹にもたれかかって泥酔している。ナナリーは夜風が体に堪えてはいけないからと
部屋に帰した。言いだっしっぺのスザクも、つい先程迄は元気にはしゃいでいたが、
今は半裸で気持良さそうに寝息をたてている。…これは単純なスザクをルルーシュが
カモった結果であるのだが―。
リヴァルも今しがた撃沈した。あと、残っている者といえば…、
「こぉら、ルルーシュ。私とも勝負しなさいっ!」
会長と自分のみになればこの宴も終わらせることが出来るのに、最後の障害を見上げて、
ルルーシュは頬が引き攣った。
そこには完全に出来上がったカレンがワインボトル片手に仁王立ちに立ち塞がっていた。
「ほら、ほらぁ!勝負するの〜っ!」
地団太を踏むカレンに、病弱設定はどうした?とルルーシュは心中で突っ込みを入れる。
幸いにも、周りはほぼ酔い潰れているし、この行動も酔った勢いと説明すればなんとか
乗り切れるのだろうが…。
早く早くと楽しげにルルーシュを急かすが、その言動は明らかにおかしい。
なにより上はブラウス一枚、ネクタイもなく襟元が大胆に開け広げられているし、
いつも履いているニーソックスも既に無い。
元々白いが、日に焼けない部分はさらに透き通るように白く―…
露出された肌がちらちらと視界の端で覗いている。
勝負するとして、負けたらこれ以上何を脱ぐつもりなのか?
いつも冷静沈着なルルーシュにしてはめずらしく焦る様を、ミレイはにやにやと
面白そうに眺めている。その視線が痛々しくルルーシュに突き刺さる。
勝って、飲ませて、とっとと撃沈させるに限る!
そう決めてルルーシュが立ち上がると、カレンは待ってましたとばかり勢いよく
拳を振り回した。お決まりの音頭を楽しそうにとるカレンと対照的に、
ルルーシュはやれやれとそれに付き合う。

『やーきゅーうぅーすぅーるならー
 こーゆー具合にしやしゃんせー
 アウト!セーフ!よよいのぉ…、……っ…』

後は拳を振り下ろすだけ。そこまで歌って、上機嫌ではしゃいでいたカレンが
急に顔色を変え、口元を押さえてしゃがみ込んだ。
ま、待てっ!
こんなところで吐くな!慌てルルーシュはカレンに駆け寄る。
「気持ち悪い…」呟くカレンに、会長の指示を仰ごうとルルーシュが振り向いた先で、
さっさと連れて行く!とミレイは頷き、鋭く目で合図を送っている。
…やはり、そうなるのか。
げんなりしながら、合図を確認したルルーシュはカレンを担ぐと、一目散に校舎へ
向かって走り出すのだった。
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