黒執事
□記憶、赤
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それから数分経った。
シエルも落ち着きを取り戻し、セバスチャンに出された朝食に手をつけている。
セバスチャンは、ゆっくりとした口調でシエルに問うた。
「まだ、胸に残ってるんですか」
息を呑む音が聞こえた。
セバスチャンは、目を伏せた。哀れみか、面白くないだけなのか。
「・・・あの人は、今、幸せだろうか」
唐突にシエルが口を開いた。
セバスチャンは顔を挙げ、シエルのほうを仰ぐ。しかし、シエルの視線はセバスチャンではなく、机の上に置かれた薔薇の花瓶へと向いていた。
シエルは、目を細め言葉を続ける。
「あの人は、あっちで大切な人に会えたのだろうか・・・父様と、母様に・・・―――」
「それは・・・」
セバスチャンは、口の端を上げる。
「死んで見ないと、分かりませんよ?」
確かにそうだな、とシエルはソファの背凭れに深く寄りかかった。
セバスチャンは、薔薇の花瓶に手を添えた。
すると、
「・・・これはまた・・・」
赤く燃える様な薔薇の花達は、風も無くそよぎ出した。
それと共に、甘いローズの石鹸の様な香りが漂い始めた。
シエルも、視線を薔薇に移し、目を開いている。
「今日も、いらしたんですね・・・」
セバスチャンが、薔薇に淡く微笑む。
シエルは、目を閉じる。
「ようこそ、ファントムハイヴ家へ」
静かな朝に、薔薇がさらに鮮やかさを増したのだった・・・。
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