贈り物の部屋

□紫音様へ
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俺の支え


(チクショーあの馬鹿教授・・・)


上條は、苛立ちながら大学の自室で一人黙々と仕事をしていた。


今の時刻は22:30

普通なら、家に帰り野分と居る時間だ。

しかし、上條の教授である宮城が体調不良で帰った後、次から次へと仕事が入ってきたのだ。

(あいつ絶対逃げやがった・・・!!)

しかし、この仕事を終えないと、鬼の上條の名に恥じる。

上條は、重い瞼を無理矢理開け、パソコンと向き合っていた。

静かな部屋、キーボードの音だけが響く。


(こんな静かな時間、久しぶりだ・・・)


上條は、ふとそう思った。


昼は何時も教授が騒ぎ、

朝と夜は、いつも野分が傍に居る。

誰も居ない時間が、とても新鮮に感じてしまう。


それと共に、寂しさも芽吹く。


上條は、手を止め、天井を見上げる。


その時、上條のケータイが音を立てて鳴った。

(だ、誰だよいきなり!!)

驚いてケータイに視線を移した上條は、それを取り上げゆっくり開く。

そして、目を丸くする。


“草間野分”

しかも、電話だ。

あいつが電話なんて珍しい・・・

上條はそう思いながらボタンを押す。


『あ、もしもし、ヒロさんですか?』

野分の声が、耳に心地よく響いてくる。

上條は目を伏せ、声の主に気持ちを寄せる。

「あぁ、珍しいな。お前が電話なんて」

『スミマセン。ヒロさんの声が聞きたくなったので・・・邪魔でしたか?』

「いや、大丈夫だ。丁度ひと段落した所だ」


良かった、とこぼす野分の声に、上條は擽ったそうに目を細めた。


(俺は、忙しかったとしても、こう答えた)


しかし、この気持ちはきっとこいつには伝えない。

なんか子供っぽくて、恥かしい・・・


『ヒロさん、あの・・・傍にあの教授居ますか?』

「あ?いや・・・教授は帰った。体調不良」

『それじゃぁ、ヒロさん一人で仕事してるんですか!!』


野分の心配そうな声。

目を閉じれば、あいつの困惑顔が浮かんでくる。


この優しさが堪らなく嬉しい・・・


上條は口元を緩ませ、野分に言い聞かせるように言った。

「俺は大丈夫。お前こそ寝なくて良いのか?」

『ヒロさんが頑張ってるのに、寝れません』

「バ〜カ。明日も忙しいんだろ?先に寝てろ」


本当はずっと起きてて欲しい。

“お帰りなさい”と言って欲しい・・・

でも今はそんな事は言えない。あいつの為だ。


しかし、


『いえ、待たせて下さい。ヒロさん』


芯の強そうな野分の澄んだ声。

上條は、その声に聞き入ってしまった。


(・・・少しは俺の配慮も考えろよな)


上條はくすり、と笑った。

野分は、こういう面では俺に強い・・・


「しょうがねぇな、明日どうなっても知らないからな」

『はい、ヒロさん』

「じゃぁ、そろそろ切るぞ」

『あ、ヒロさん』

野分の、笑みを含んだような声が聞こえた。



『仕事終わるまで電源切らないで下さい。俺、見えなくても、ヒロさんの傍に居たいんです』


上條は、顔を一気に赤くする。


嬉しいというか、迷惑というか・・・

すごく複雑な気分・・・


野分と居ると、何時も調子が狂ってしまう。


でも、俺は知っている。

「・・・・・・仕方ないな。喋んないぞ?」

『はい、ヒロさん』

こいつの存在そのものが、



俺の支えになっていることを・・・・・・




無言の部屋、キーボードの音が響く。

でも、


1つの確かな存在が、俺の傍にある。







〜END〜

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