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□信号4
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顔を天井に向け、深く、熱を散らすように溜め息をフラッシュマンが吐く。
───もう、何度電流を流されたか分からなかった。
自身が組んだセキュリティプログラムを自身に解かせようという、堂堂巡りの拷問という名の交渉。
機械相手に拷問したとして余り意味はないはずだが、こうもいたぶる理由が自分から
情報を引き出すためというのが、自分を自我ないプログラムされた人形と扱う割に
妙に人間相手にされているようで気持ちが悪い。
確かに、こちらのプロテクトが解けないなら自分に解かす他ないというのは一見
理にかなってはいるようには見える。しかし、こちらは機械だ。
流される電流が原因のエラーでデータが吹っ飛ぶことも、自分がデータを消すことも
充分に考慮できるだろうに、その点について余り重要性を置いてないように
見えるのが、データ目当てと言いつつ矛盾を感じ不気味だ。
男が言うように、確かにその辺のコスト低下に念頭をおいた大量生産どもと自分を
同レベル扱いされても笑い話になるだけのスペック差はあるだろう。
しかし、やりすぎてしまえば、耐えきれないラインは───ないわけではない。
与えられるものが原始的であればある程、単純故に何より強い要因となり自分は
いとも容易く壊れてしまうだろう。例えば、今電流ではなく、単純に水が機体に
流し込まれでもしたら、すぐにショートして簡単に意識は再起すらしなくなる。
フラッシュマンは苦々しげに歯を噛み締めた。
すると、考え込んでいた男が、ならば、とフラッシュマンに向き直る。ほんのり
笑みすら浮かべる様は、やはり幼子を相手にしているようで酷く不気味にフラッシュマンに映った。
「そうだね、君も中々粘るようだから、じゃあ」

腕を一本貰おうか。

「……ッ!」
時間が経ち麻痺しかけたプロセッサが漸くクリアになりかけた中で、それでも
一瞬聞き間違えたかとフラッシュマンは自身の聴覚器を疑った。
朗らかに、まるで天気についての話題でも出したかのように言う男に、ひくりと頬が引きつる。
痛いのは嫌いだと、聞こえなかったかのような自然さだ。
言葉に詰まっている間に、男の後ろから数人の研究員がガラガラと何か台を押してくる。
その台の上、何かの拷問器具のようなものが視界に入った。
「……ッ!!」
それを見て、どうやら今日は最初から腕を取る予定だったのだろうと容易に察する
ことが出来、準備のいいことだとフラッシュマンは更にキツく歯噛みした。
(冗談にしても笑えねえ、……!!)
回路で吐いた悪態に、その声が聞こえたかのように男はさらりと言い放つ。
「もう大半壊れてしまっているのだから、いらないだろう? ほんの少しの配線と
 金属片で繋がっているだけじゃないか。きちんと繋がっている方は、まだとっておいてあげるよ」
「───…!!」
当然のように言う男に咄嗟に暴れようとフラッシュマンは試みたが、破損に加え
拷問を受けた機体ではただ少し揺れただけの、虚しい音を立てるだけに終わった。
焦燥に駆られ、傍に来た台に視線をやる。


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