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□意識
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だだこねる四兄に、フラッシュマンが赤らんだ頬のままうざったそうに手を払う。
む、とクイックマンが不機嫌に眉根を寄せた。
「あんだよケチ、減るもんじゃねーだろ。なーもっかいって」
「しつこい男は嫌われますよ。メンテ中だ黙ってろ。誰のためだと思ってる」
「俺のためだろ、嬉しいぞハゲ」
「そのハゲに何しやがったデコぬけぬけほざくな」
「なぁ、もう一回って」
「…………」
「今度はシカトかよ、擦っただけじゃねーか、なぁ」
「…………」
「もしもーし」
クイックマンの要求に、しかしもはや返事すら放棄しフラッシュマンはカタカタと
無言でモニタに向かい何かを打ち込み始める。強制的に黙らせるプログラムでも
打ち込んでいるのだろうかとクイックマンが思うが、しかし端子から送られる
パルスに異変はない。
「なぁ、フラッシュ」
諦めないまま呼び掛ける。
触れたい。
怒っているのだろうか、背を向けた青を眺めながら、クイックマンはそう思った。
動けないのはやはり厭わしい。走りたいのに許されない。拘束感が苦しい。
触れたくても、届かない。
応えない黙ったままの青に、クイックマンは退屈そうに溜め息を吐く。
確かに場所は場所だったが、しかし自分たち以外誰もいないのだから───何より、
そういうことをして変な仲ではないのだから───そう怒ることもないだろうと思った。
かたり、と音がしてクイックマンが視線を向ける。
フラッシュマンがモニタから向きを変え、器具を手にとっていた。
スキャニングはまだ終わりきっていないが速さを司る脚は一番メンテナンスを
要する部位の一つであるため、実際に内部を見る気らしい。
それを見て仕方ない、と痛覚を司る感覚回路を閉じようとして、しかしふと
クイックマンは漸くそこで自身の異変に気付く。
「……!」
痛覚がすでに切られていた。
フラッシュマンが先程打ち込んでいたのはこれか、とクイックマンは思う。
そう考えると同時、ふと顔に影がかかった。
何だ、とクイックマンが視線を向けるより早く、唇に柔らかなものが押しつけられる。
「ッ!?」
驚きに、アイセンサーが焦点を合わせるのが一拍遅れた。目蓋を閉じ口付けてくる
フラッシュマンが視界に映る。
「────!!」
咄嗟に固まったその隙に唇を唇ではまれ、するりとフラッシュマンの舌が忍び込んだ。
すぐに舌が絡められ、なぞり、甘く噛まれ、それにクイックマンが応え捕まえようと
すればしかし逃れ躱された。なのに、こちらは容易く絡めとられる。
保潤液がとろりと流れ込み、咥内で交ざりあった。ときたま舌が解けては離れた
隙間から互いの排気が零れ落ち、間を置かずそれごと飲み込むように再度唇が重ねられる。
角度を変え、首を傾け幾度も唇を触れ合わせた。
こくり、と喉を鳴らし、まざりあった互いの保潤液をクイックマンが飲み込む。
濃厚に唇を重ねる二機体を余所に、モニタからビープ音が鳴った。高い音がラボに響く。
エラーが見つかったらしい、クイックマンのシルエットが表示されているモニタの中、
左脚の踵に赤いポイントが点滅していた。
くちゅ、と濃厚な音を立て、フラッシュマンが頭を上げる。にやりと片頬を持ち上げた。
「……さて、ご要望にお答えしてみましたが、お気に召したか?」
「………最悪だ」
とろりと溶けた視線でかけられる笑みに、しかしクイックマンは届かない悔しさに
小さく吐き捨てた。フラッシュマンが笑みを浮かべたまま、エラーが発見された
場所の外郭を外す。
かわらず距離が近い相手には、動けない今もやはり届かない。
意識があるままのメンテナンスはやはり苦手だと、クイックマンは回路の端で呟いた。





おわり

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