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□意識
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人数が半減したが、しかしラボの中は静まらない。
「あ"ー離せー嫌だー俺は走るんだー止まったら死ぬー」
「何お前鮪? それとも鰹? 魚類? やっぱりそのでこは触角なわけ? 残念な
 イケメンですねうわキモい」
「突っ込みすぎだろ。やっぱりって何だやっぱりって」
「まぁそんなこたどーでもいーから足の痛覚切れ、開けますよー」
「やなこった」
「………拷問コースがお好みでお望み? 何お前マゾ? 残念なイケメンですねうわキモい」
「お前の発想がキモいわ! てか二回言うな!」
軽口の応酬を続けながら、フラッシュマンがそれでも手際よくクイックマンに
コードを繋げていく。やんわりと回路を走る検査プログラムに、クイックマンは
観念したように機体から力を抜いた。
「………」
「お、漸く諦めたか」
「煩い畜生」
零しながらクイックマンが青い装甲に囲まれた表情を見ると、フラッシュマンは
軽い口調とは裏腹に冷静な眼差しをモニタに向けている。
そのモニタにエラーが表示されないことから、機体状況は今のところ良好である
ことが伺え、クイックマンは拘束されるだけに終わりそうなメンテナンスに溜め息を吐いた。
早く終われと念じながらドアに視線を向けるとしかし、首根に付けたコードが
微妙にたぐまりむず痒くなる。厭わしそうに首を振るがそれはなくならず、
舌打ちをすると音に気付いたフラッシュマンが振り向いた。
「? こら動くな。どした?」
「首、コード引っ掛かって気持ち悪い」
「あぁ? あ、あーあー、見えた見えた分かった。除けてやっから動くな感謝しやがれ」
「一言余計だそして早く終われ」
「るっせーな一言多いのはどっちだカス。てか何でメンテをそこまで嫌うかねぇ?」
「動けないとお前に触れないしな」
「言ってろタコ」
「うわっ流しやがった。空気読め」
「読むような空気はありません」
欠けらもつれなく言いながら、首を覗き込むようにしてフラッシュマンが近づき
コードを払う。
「………!」
すると、ふと目の前の光景にクイックマンは悪戯を思いついた。
メンテナンス台に横たわるうえに沿うような、今の状態。
今の自分達は、随分と顔が近い。自身に覆うようにのしかかりながら、しかし
首に視線を向けているため目は伏せられ、唇はほんの少し薄く開いている。
緩やかな排気は暖かく、首から胸にかけてセンサーを擽った。
中々美味しいとクイックマンは思う。
しかし、対して今の状態に何の意識もせずコードの位置を整えるフラッシュマンが
少し腹立たしく、さも何でもないように声をかけた。
「おいハゲ?」
「ぁんだよちょっと待、…っ!?」
声に反応し、フラッシュマンの視線が上がる。
その瞬間を狙い、クイックマンが首をもたげ、掠めるように唇を重ねた。
しかしすぐにメンテナンス台に機体を沈ませ、呆けた表情で固まるフラッシュマンを
クイックマンが眺める。
「隙あり。…まぁこういう空気ですけど、読めましたかハゲ?」
「………うっわお前信じらんね…ラボだぞここ…!」
げんなりとフラッシュマンが片手で顔を覆うが、赤らんだ頬がクイックマンに視認された。
ふん、と鼻を鳴らす。
「誰もいねーからいいだろーが」
「そういう問題じゃねんだよ残念野郎」
「喧しい、なぁ、も一回」
「死ね」
「もー一回」
「やだね。いいから痛覚切れクソったれ」

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