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□意識
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「てめえ、これで一体何回目だと思ってる」
「数えてない」
「おーやおや奇遇だなぁ、あぁ俺もだよこのクソドアホ!」
やれやれと困ったような、しかし笑顔の創造主が視線を注ぐ中、赤い機体が
青い機体によってメンテナンス台に縛り付けられた。
がしゃん、と金属のぶつかり合う音が鳴る。
マスクの奥で、緑の機体がぶふぅっと吹き出した。




意識




「フラッシュ、いつもごめんね、ありがとう」
「すまんのぉ、お前が基地に居るときで助かったわ」
「や、別にいいですけど」
ふふ、と肩を震わせるバブルマンの脚を視ながら、ワイリーがフラッシュマンに礼をのべた。
それに軽く返事をしながら、フラッシュマンは右腕をハンド形態にシフトさせる。
かしゃかしゃと形成されていく白い手を恨みがましく眺めながら、台に括り付け
られているクイックマンは小さく舌を打った。
鮮やかな美しい赤い機体は、しかし今は動けないよう、メンテナンス用の特別の
ベルトでがっちり固定されている。
バブルマンとクイックマンの状態検査の日。
先程、たまたま基地にいたフラッシュマンが父に言われ、特設プールから足腰に
難がある三兄を抱えてメンテナンスのためにラボに連れてきた。だが、ラボに
訪れた途端にもう一人のメンテナンス対象であるクイックマンが逃走した旨を聞き、
挙げ句四兄の弱点武器を有している故にその捕獲をも頼まれたのだ。
逃走を試みた当のクイックマンは、しかし機体の不備を全て点検し整備される
フルメンテナンスは大好きである。
再生を持たない身としての、速さのため、強さのためにかかせないそれは動けないのは
同じだがしかし、意識を沈ませているのでまるで眠っている間にことがすむからだ。
しかし状態検査は違った。
プログラムを走らせ、不調がないかの軽いチェックと整備は、意識を落とさず
行うためにクイックマンには拘束が酷く窮屈でならないのだ。
「おら、おとなしくしやがれ。博士が兄貴見てるついでだ、てめえは俺が直々に
 やってやる。光栄に思え覚悟しろ」
「覚悟って何だ覚悟って。畜生、覚えてろよクソハゲ。タイムストッパーまで使いやがって」
「あんたが逃げるからですぅー俺のせいじゃありませんー。はい、痛かったら
 右手を挙げるんですよぉー」
「メタルの真似すんな歯医者か貴様」
ぎゃあぎゃあと喧しい二機体を余所に、ワイリーがバブルマンの膝の外郭を
閉じながら「よし、今日はこんなもんじゃの」とメンテナンスを終えた。
「具合はどうじゃ?」
「ん、歩けます歩けます。いい感じ。ありがとうございます博士。ほら、おとなしく
 してたらこんなに早く終わるんだよ、クイック?」
「…煩いな、分かってるよ」
不貞腐れる四男の姿に、バブルマンとワイリーが微笑んだ。するとそこに、
メタルマンの声でラボのスピーカーに「博士、お茶が入りました、ご休憩されては
 いかがですか」と通信が入る。ぽん、と手を打ち、バブルマンが思い出したように続けた。
「あ、そうそう、今日はお茶請けに兄さんがクッキー焼いてましたよ」
丁度終わったし、食べに行きましょう、と笑うバブルマンに、しかしワイリーは
「む、しかし…構わんか、クイック、フラッシュ?」
「俺は別にいいです。ハゲに直させるところなんてそうないだろうし」
「ほぉう? 博士、こいつにゃ序でに御灸も据えときますから食ってきて下さいよ」
「んなっ!?」
「ははは、じゃあお言葉に甘えるとしようかの」
喧嘩も程々にの、そう続けながら、ワイリーはバブルマンと連れ立って出ていった。

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