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すれ違いすらしない肩。こちらに投げ掛けられない視線。聞こえた声に、その唇に
自分のものを重ねた感触を思い出しては誤魔化すように湿らせる。
腕に収める温もりを、忘れないまま足を運んだ。




「お久しぶりです」
「おお、久しぶりだな、確かに。てめえが火星探査の鉱物調査に駆り出されてたからな。
 確かに久しぶりだが、よく帰ってきたなとは思うが、これは一体どういうことかねぇ?」
「はは、いやいや、まぁまぁ」
へらへらと誤魔化しにもなっていない誤魔化しをして、憮然とした顔に笑い掛ける。
久々の地球の重力に怠い足で部屋まで赴き、扉が開いた瞬間の出会い頭にこの鈍い腕で
それでも掻き抱いた、青。
温もりを求めて肩口に頬を止せ、しかし余りに勢い良く抱き締めたせいで彼が
ぐらりとバランスを崩し、こちらも本調子ではないためか支えられずそのまま
床に押し倒す形になった、先輩機体。
帰還後もばたばたと忙しく、地球に帰ってきてから数日経って漸く会えた彼。
憮然としながらもされるがままでいることを嬉しく思い、密着した機体をさらにすり寄せた。
尾がゆるりと持ち上がり、その頬をゆっくりなぞる。
「あー会いたかった」
「よしよし、そうだな、分かったから早く起きろ」
「えー、やだ」
腰と背に回っている両腕に、出来る限り力を込めた。
温もりを、感触を、立ち上る香りをもっと堪能していたい。
「こら、まだ重力差の調整とれてねーんだろーが。バカたれ」
「そーだけどさ、えー、もうちょいー」
「ったく、」
ため息を吐かれたと思うと、彼が両腕をあげて容易く自分の檻は解けた。
そのまま肩を捕まれ、起こされる。
「…ッ!」
離れた温もりが嫌で、動きの鈍い腕を再度のばそうとすると、しかし代わりに
青い檻に閉じ込められた。
後頭部に手が回り、青い肩へ顔が押しつけられる。次いで、やんわりと自分の肩に
彼の頬が触れた。
「…?」
「お帰り、くらい言わせろ、全く」
「…えへへ、ただ今です」
「ふん」
言われた言葉が、包まれる感触が心地よく、少しでも返したくて抱き込まれた腕で
何とか腰の辺りに腕を回す。それなりに自分に会いたかったのだと判断していいのだろうか。
愛しさが湧いて尾をくるりと頭部に回し、そのまま先でさりさりと首根を擽った。
途端、ぴくん、と肩が跳ねる。ふふ、と擽ったそうに彼が笑った。
「ッ、ん…こら」
「いてて、首噛まんでくださいよ」
仕返しのように首の管をかしりと噛まれ、それに応えるように首根を擽っていた先を、
つう、と管に沿って上へとのぼらせる。
すぐに聴覚器にたどり着き、そっと外円部をなでれば、ふるりと青い背が震えた。
それを無視して内部の丸みをやんわりと擽れば、少し強めに肩が跳ね上がる。
「てめ、…ッふ…!」
彼が喋るたび、反応して震えるたび、自身の首を唇が擽った。
「ねーねー、ちょい腕離して?」
「お前がまず尻尾どけやがれ」
「あ、それもそうか」
言われてしゅるりと解き、機体を少し離して俯き気味の顔を覗く。
帰還後すれ違いすらしなかった肩は今や目の前、自分の掌に包まれていた。
投げ掛けられなかった視線は、今は不思議そうにこちらを見ている。
声は間近で聞くことが叶い、しかし未だ唇は重なっていない。
どうしたのかと首を傾げる彼の薄く開いた唇に、しらず口端が釣り上がった。
離れたことを厭うように強く頬を引き寄せ、噛み付くように唇を重ねる。

絡む舌に上がる温もりは、忘れなかったそれと違わず暖かかった。



おわり

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