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□最近
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「新型な後輩のケツ叩きが楽しくてな?」
「趣味悪ぃ…」
「お前んとこの部下がまた困ってたぞ、部下泣かせめ、泣かせんな。───
 ワナーンの装置に不具合が出たそうだ───まあ、俺に泣き付いてきたのは
 ニードルマンだがな」
「はぁ、あいつが…」
「通信機は切ってやがるし、捕まえても自分が言っても右から左で効果がないし、
 マグネットマンけしかけようかとも思ったらしいが、偶然俺が来たからな。頼まれた」
「そりゃ助かった」
皮肉と本心を半々に交え、ハードマンが肩を竦める。
自分の弱点武器持ちの兄機体がくるよりは、口煩い旧型の先輩機体の方が余程いい。
そう思いながら三トンの大柄な機体をフラッシュマンの隣に立たせる。
立ち上がったハードマンの肩ほどの高さにある顔は、まだ楽しそうに意地の悪い
顔でにやついていた。それを見てハードマンは小さく舌打ちする。
この先輩がよく浮かべる年下をからかうような表情が、ハードマンは何となく
居心地が悪かった。事実相手は年上と言う存在なのだが、妙に癪な気分になるのだ。
どうにもこの先輩機体はお節介で口煩いので苦手だ、そう回路の中で零す。
そして何より、データにあるガラの悪そうな、酷く冷たい印象を受けるものとは
随分違う、とハードマンは思った。
時にこうしてにやにやと腹立たしい表情で、時に心底呆れた表情で、時に厳しい
表情で、たまにバカな話で盛り上がってといったように、思いの外先のナンバーズは
豊かに表情を変えるのだ。
特にこの機体は、後輩相手になんて、もっと無関心でいそうだと勝手に思っていたのに。
そう続けながら、ハードマンは自分の少し前を歩く青い背中を眺める。
「あんたも暇だな」
「なわけねーだろ、こちとら機体戻って久しいから結構忙しいんだよ」
ハードマンが皮肉を込めて呟けば、フラッシュマンは後ろを振り返って濃紺の
後輩機体をじろりと睨んだ。
「だったらニードルの泣き言なんてほっときゃいいのに」
そしたらもっとサボれたのに、とハードマンが言うと、フラッシュマンは「うるせえ」
と返す。ハードマンはやれやれとため息を吐いた。
「つくづく思うけど、変な先輩だなあんた」
「こんな優しい、の間違いだろうが。おら行くぞ。手伝ってやっからさっさと終わらせろ」
「ヘイヘイ」

忙しいと今さっき述べたくせに、わざわざ手伝うと言うフラッシュマンに、
ハードマンは本当に変な先輩だ、と小さく笑みを浮かべる。
装甲と表情のせいか冷たそうな印象を受けたデータが、どの先輩機体にも言える
ことだが、会えば会うだけ更新されていく。
初期のデータは過去として、いまや殆ど塗り替えられていた。
お節介で、口喧しく、煩わしく、年下扱いし、したり顔で、頼んでもないのに
世話を焼き、サボり場所を割り出しては自分を連行していく先輩機体。

だが、嫌いではないな。

そう思いながら、ハードマンは歩くスピードをフラッシュマンに合わせた。
切ってある通信は、部下の悲鳴と兄の怒声が聞こえてきそうなので、そのままにして。


データではすでにインプットされていた。
だから、いつから知っているのかと問われれば、稼働したその日から、ということになる。
性格や言葉遣いといったパーソナルデータは知らないが、姿形と戦闘スタイルは知っていた。
本当に会って少しずつ知り始めたのは、やっと最近になってからのことだった。



おわり

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