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□遠近
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「はは、あんだけ声でかけりゃ聞こえますよ」
「んー、でもまぁ、狭いとこは嫌いだが、のびのび寝れんなら結構気にしねえな」
別に寝るとこ限定されるまで繊細とかってわけじゃねーよ。
そう言って笑うフラッシュマンに、スネークマンは回路に走るパルスがちりちりと
ささくれだつような感を覚える。しかしそんなことはおくびにも出さず、ただ
仲いいですね、とへらりと笑った。
先程の青い機体の言葉を思い返しながら、確かに繊細とは少し違うだろう、
そうスネークマンは考える。目の前の機体と同期のナンバーズたちの言葉が
メモリの中でリフレインを起こした。



気付かなかったんですか。
知らなかったんですか。
貴方達は。
中でも殊に貴方は。


────ああ、フラッシュ兄ちゃん? よくその辺で眠ってるよ? 気持ち
    良さそうにしてるよね。僕らも一緒にお昼寝するときもあるよ────

────んーとね、そうだなー、一旦寝たら結構しつこいよ、寝汚いっていうの?
    起きないの。でもフラッシュはいい枕になるよ。腕もいいんだけど、
    足とか、あとお腹とか────

────朝起きてるときは大概が夜からずっと起きてるときかな、弟は。忙しい
    のか暇なのかよく分からんが、寝顔はたまに面白いぞ。普段の仏頂面と全然違う────

────起こしにいくと例外なく不機嫌になりやがる、あのハゲ────

────うん、中々起きないねえ、朝なんか特に。…ふふ、僕はあの子のこと
    言えないんだけどね。広間で転がってるの見ると落書きしたくなるよ────

────性能上もあって、仕事する時間が一定でないからな。一応無理はして
    いない証だから心配はしてないが、見ていてあまりいい態度とは言えない
    のも事実だ────

────寝れる場所なら、そうだね、ここの基地か、自分の基地か、ウッドの森か。
    このどこかの、大の字でとか寝返りうっても平気なとこなら、好きに
    寝てるよ。あの子の休憩まちまちなんだ。仕事は滅多に手伝わせて
    くれないし、心配なんだけどね────


貴方の兄弟達が、そして半分とはいえ自分達と共通の筈の父が近づいてもましてや
触れても、確かに貴方は眠りを妨げられることなく微動だにしない。
物音がしようと、声が聞こえようと、その頬を撫でられようと。
ちょっとやそっとじゃ、安らかな駆動音はその一定を保ったまま、決して乱れない。
安心しきって、穏やかに眠る。



思い返されるメモリ内容に、ついくつりと笑みが零れた。唇の端が釣り上がる。
起きない? 寝汚い? この人の眠りが深いだとでも言うつもりだろうか?
ああ全く、酷い冗談だ。
スネークマンの白い装甲を纏った肩が、一見楽しそうに震える。フラッシュマンが
どうしたのかと見やるが、何でもないとスネークマンは流した。

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