Main2

□遠近
1ページ/4ページ






気付かなかったんですか。
知らなかったんですか。




遠近




足音は立てていない。
気配も殺している。
目線はぴたりと当てて外さず、しかしそれに感情を乗せはしない。
駆動系は緊張を持たせたまま、しかし熱すら殆ど生まれない最低限の出力。
ゆっくり静かに足を運ぶ。
風下で香りすら届かない。声を出すだなんて愚の骨頂。排気もほぼ無いその状態。
まさに任務時のような、張り詰めた仕様。
しかし。


貴方は目を開いた。


そして次には怠そうに頭をもたげ眠そうにこちらを睨むか、ぼーっと眺めるか、
よう、と笑うか、何れかの表情を浮かべるのが常だ。
そしてそれにどうもと返しながら、起こった現実に失敗ったと言うべきなのか、
はたまたぶつけ所のない悔しさに毒を吐くべきか、と自分は内心で悩むのだ。


そんなことを思いながら、蛇を模した頭部装甲を持つ緑色の機体、スネークマンは
スリープモードが解除されて稼働し始める機体にへらりと笑みを浮かべた。
それに片手を上げて返しながら、眠っていた機体───フラッシュマンが機体の
その稼働音を上げる。ふう、と一つ排気して、傍に立つ新型機体を見上げた。
フラッシュマンの視界に、その新型機体の緑色と鮮やかな青い空が広がる。
二機体がいるのは室内どころか基地内ですらない、一応敷地内ではあるものの、
建物から随分と離れた屋外の丘の上だった。
さわり、と静かに穏やかな風が吹く。
「どうした、何か用かスネーク」
「や、何か転がってんのが見えたんでうちのバカ兄貴かなぁと思って」
「あー、ハードか。またサボってんのか、あいつ?」
「さぁ、最近は比較的真面目になってっけど。ただ、あいつがよく寝てる場所に
 誰か転がってんのが見えたから」
すとん、と隣に腰を下ろしながら言うスネークマンに、フラッシュマンはのびを
しながらなるほど、と答えた。
「ああ、そうそう、ここあいつの気に入りのとこなんだよな、俺もあいつが
 サボってんの探してて気付いた。この前マグネットに泣き付かれてな」
「はあ」
「居心地っつか寝心地? がすげーよくてビビったぜ。あいつ、サボる場所
 見つけんのうめえよな。流石だ」
くく、と楽しそうに笑うフラッシュマンに、スネークマンはそういう事だけは
あいつ真面目に探すみてえだから、と適当に相づちをうった。
「にしても、自分のこと繊細だって言う割に、よくんなとこで寝ますね」
「ぁえ? 繊細だぁ?」
「あれ、違いました? クイックさんとよく言い合ってんの聞きますよけど」
「あぁな、まぁ、あの阿呆がデリケートねえ上任務んときとか無頓着なせいで
 確かに言うか。よく知ってんな」

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ