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「俺にゃねーさんは普通にしか見えねえが、いつも一緒にいるお前が言うにゃ
 そうなんだろうよ。んで、解決するにはまず分析しなきゃな。ロールが元気ない、
 または空元気。じゃあそれはいつからだい、にーさん?」
「………」
カットマンに言われて、バタバタさせていた足をロックがふと止める。むくりと
起き上がったその表情は真面目なものをしていた。確認のためにメモリを遡って
いくにつれ、それはどんどん固くなっていく。
いつも楽しそうに笑っていた妹。
ふとした瞬間に、その表情に憂いが見えるようになったのは。
それが始まった頃にまで思い到り、ロックはぽつりと口を開いた。
「……この間の、ワイリーナンバーズの襲撃があってから、その後から」
「…! あの工業区か…! 」
ロックの言葉に、カットマンは忌々しそうに反応する。その場には仕事の場が
山林なためいなかったものの、工業区への大規模な破壊行為に一時町中が騒然と
なったことは覚えていた。
特に被害が酷かった、というよりも跡形もなく粉々にされたとある企業のビルと
工場は、画期的な新技術を開発したばかりだったというから酷い話だ。執拗な
までに破壊されデータすら修復不能になったその跡地は、見事に瓦礫しか残って
いなかったという。
その企業は開発したばかりだった新技術も会社も何もかも潰された事で莫大な
損害を抱え、つい先日本当に潰えたとニュースで聞いたことをカットマンは思い出す。
「あん時、ロールはあのクソ共と会っちまったんだったか」
「うん」
やれやれ災難だ、と首を振り、しかしカットマンはふとその首を今度は傾げた。
「…ん? あれ? でも、ロールは無事だったんだよな…?」
「うん。損傷もなかった」
「ああ、無事でよかったよな本当。───でもあの間抜け共、ロールは家庭用
 とはいえライトナンバーズだってのに、気付かなかったのかねぇ?───
 でもその後から元気ない、あるように見えても空元気だと思う、って?」
「うん」
「何だそりゃ…いきなり行き詰まったなオイ」
兄の肯定の声に、カットマンは機体の力を抜いた。
どさ、とソファの背もたれにもたれかかる。
何があったのか。肝心で大切なところが分からない。カットマンはがりがりと
側頭部をかきながら、つまり、と人差し指をぴっと立てた。
「ロールはこないだの工業区でワイリーナンバーズの奴らに会っちまって、でも
 無事だったが、その代わり元気なくなるようなことが何かあった。っつーことか。
 こら本人に聞かなきゃ何があったか分かんねーな。俺達がダベるだけじゃお手上げだ」
総括するカットマンに、ロックは唸り声を返す。
「でも聞いても答えないんだよねー…はぐらかされるっていうかさー」
ロールちゃんが兄離れした…。心配そうに、淋しそうに言うロックに、カットマンは
頼りになるのかならないのかよく分からない自分の兄機体に、深々とため息を吐いた。
傍にあった未開封のE缶をぽん、と投げる。ロックはそれを容易に受け取った。
機体反応良好。カットマンは口端をゆるりと持ち上げる。
「しっかりしてくれよ、にーさん……?」
カットマンの呆れ声に、ロックはもふりと枕を抱き締めた。

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