Main2

□選択
1ページ/11ページ


独善の続き




洗濯物を干し終えた、だとか。窓を開ける、だとか。本を読んでいる、だとか。
ふとした瞬間、確かにその横顔は。




選択




カチャカチャと食器の擦れる音、泡立つ洗剤の香り。
ロックとロールはキッチンに並び立ち、食後の片付けをしていた。
洗剤を流し落とされた食器が一枚、少女の手から少年へと渡される。
それを受け取って拭きながら、ロックはちらりと少し俯き気味に食器を洗っている
妹機体へと視線を向けた。
塵からアイセンサーを守るために存在する、人の睫毛を模された髪と同じ色の
伏せられた金糸、緩く弧を描く唇、次々洗っていく、無駄のない手指の動き。
楽しそうだ。
ロックが思ったのはまずそれだった。
鼻歌混じりに家事に勤しむ妹の様は、どこからみても楽しそうに見える。
拭き終えた食器を棚にしまいながら、ロックはうーん、と首を傾げた。
一見普段どおりの妹機体。何ら変哲なことはない風景。その筈だ。
それでも。
そう思いながらロックはロールをこそりと伺い見る。
(…………)
自分よりも少し低い位置にある肩と、髪に隠れながら僅か見える表情。
いつも通りのはずのそれを、しかし少年は静かに視線を注いだ。
途端、くるりと少女が振り返る。
「どうしたの、ロック、続き拭いて?」
「っああ、ごめんごめん!」
訝しげに見てくる妹に我に返って謝りながら、ロックは慌てて家事に戻った。
そんな兄機体を不思議そうに見ながら、ロールはくすりと笑みを浮かべる。
「…? ぼーっとしてるなんて珍しいわね、疲れたの? あとは私がやるから休む?」
「そ! そんなことないよ、大丈夫。……でも」
「?」
「ロールちゃんこそ、最近元気ないんじゃないかなって思うんだけど…」
「あら、私はお皿洗いながらぼーっとした覚えなんかないわよ?」
ふふ、やあね。
クスクス笑いながら言うロールに、ロックはバツが悪そうに手元の食器に目線を落とした。
きゅ、と音を立てながら水気を拭き取っていく。
洗剤をスポンジに足し、シャボン玉を楽しそうに作るロールの姿は、やはり
楽しそうに見えた。






「でも、なーんか変なんだよね」
「あ? 何が?」
ぼふり、とベッドに背中からダイブしながら言うロックに、定期メンテナンスの
ためにライト亭を訪れていたカットマンが聞き返す。頭部のカッターを手に
持って磨きながら、ベッドの上でごろごろ転がりだす兄機体を見つめた。
「いや、ロールちゃん、何か最近変なんだよね、と思ってさ。元気なくない?」
「…ほえ? どこが? いつも通り、元気にテキパキしてると思うけどよ」
「うん、いや、そーなんだけどさ、でもそーじゃなくてさ、何ていうの、その
 元気な姿に違和感があるっていうか?」
「はぁ」
「空元気? みたいな?」
「天下のロックマンが みたいな? じゃねえよ…」
どこか呆れて言いながら、カットマンがかちゃりとカッターを頭に戻す。
一つ長く排気し、で、と片腕を膝に置き機体を前のめりにさせてロックを見つめた。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ