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□contraire
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ひらひらと手をふり、ワイリーが広間からでていく息子二体を見送る。
「ゆっくり休めクイック、チョコはわしらが食ってやるからの」
「博士、血糖値が上がります、程々になさってください」
「そういうなメタル、たまにはよかろうて」
「これはそういえる量じゃありません博士…!」
父とメタルマンの声を背に聞きながら、フラッシュマンはやれやれと
溜め息をついた。廊下にまで甘い香りが充満している。流石に少し
きついな、と思いながら、担ぎ上げている兄に「よう、生きてるか
色男?」と声をかけた。
「……生きてるよクソハゲ…」
「二、三日すりゃチョコとかの菓子は綺麗に消えてるだろうが、
 それ以外はてめえでなんとかしろよ、デコ野郎」
「あああああやめろ、考えたくない…!」
「…ほんっとに贅沢な悩みだなクソ野郎。あー腹立つわー」
「……他からすげー貰っても本命がくれないと意味ないんですー」
「ふーん、本命って何処のどちらのどなた様?」
「泣くぞ酷ハゲ」
「どんなハゲだ」
「お前みたいなのだドハゲ。まあ、そんなわけだ、苦しんでいる
 俺に渡すもんはないのかねフラッシュ君」
「バレンタインのならやったろうがよ、ご不満だとでも言う気か殺すぞ」
「不満っつかそーじゃなくて、アルバム、ありゃすげー嬉しかったがよ。
 じゃなくてだな、もっと別に何かないの」
「贅沢は敵ですー、まだ欲しがるとかどんだけ? てかそんな余裕
 あるなら戻って広間にぶち込むぞ」
「それだけは許して下さい。…てか、何でそんな不機嫌なのお前」
「さてね」
クイックマンの部屋にアクセスし、フラッシュマンは開いたドアをくぐる。
口は動いても機体は相変わらずぐったりと動きが鈍いらしい兄を
どさりと寝台に横たえた。衝撃に、ぐう、と唸るクイックマンに
「しっかりしろよ情けねえ…」と額をぺちぺちと叩いてやる。
赤い手がそれを捕まえた。
「……本命用、とか、なんかないの」
「しっつっけーなてめえは……」
まだ食い下がる四兄に、フラッシュマンはげんなりと肩を落とす。
やつれた顔に、むす、と何処か拗ねたような色を加えるクイックマンに
呆れた視線を送り、しかし直ぐに、ふと何かを思い付いたらしく、
「そんじゃ、そんなに言うなら?」と片頬を持ち上げた。
「?」
白い指が絡むように優しく赤い顎に触れる。つ、と軽く上げられた。
何を、と呟こうとしたクイックマンの唇は、しかしフラッシュマンの
それが重なって動きを止める。
「───!?」
驚いてクイックマンが目を見開くのを余所に、力が抜けていた唇を
容易く割り、フラッシュマンの舌がするりと侵入する。普段とは
掛け離れた行動に、しかしクイックマンはその舌に突然ガチリと固まった。
「っ!!?」
「……はい、チョコのお味は如何でしたか?」
青い顔で口を押さえて動かなくなったクイックマンに、フラッシュマンが
してやったりと笑う。フラッシュマンには、先程食べた長兄の
チョコレートの味がまだ口の中に残っていたのだ。今最も味わい
たくないそれを味わう羽目になったクイックマンは動く余裕もなく、
しかし回路の中でもんどりうって悶えた。楽しそうなその顔を睨み
上げながらふるふると声を震わせ、クイックマンが声を搾り出す。
「おっ前最悪……!」
「でも味は甘ったるくなかったろ」
「そ、そういう問題じゃなくてだな…!」
抗議をしながらよろよろと持ち上げられる手を、フラッシュマンが
ぱしりと悪戯に掴んだ。

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