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□contraire
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2月14日。
西暦269年にローマの司祭、後に聖ウァレンティヌスと呼ばれる
彼が殉教死した日とされる祝日。
本当に存在したかすら定かでないお伽話に近いそれに由来する、
家族や友人、恋人、または想いを寄せる相手に花や菓子、カードなど
贈り物を渡し合う日である。
鳥が番うとも言われており、様々な説が飛び交いながらも大半が
恋愛をうたっており、今まさに世間が色めき立つ季節であった。







「クイック兄ちゃん、また着たよー」
ウッドマンの声が高らかに響いた。









contraire



「わーい、追加追加!」
末弟の声に、ヒートマンが嬉しそうにエントランスホールへと
駆け出して行った。メタルマンがその背を見送りながら、ふう、と
感嘆の溜め息をつく。次いで広間を見渡せば、大小様々、色とりどりの
箱や袋が所狭しと広がっていた。
その中、埋もれそうになっているソファや椅子に、あと五人の
兄弟機と父であるワイリーが何とか座っている。
バレンタイン当日、ワイリー基地にはチョコレートやプレゼントが
怒涛の如く送り届けられていた。
のんびりとバブルマンがその一つを手に取り、トリュフを頬張る。
「凄いね、日付かわってからこれ何度目の配達?」
「さてな、今朝はクイックはランニングに出てないらしいからな、
 恐らくはその前からもう届けられていたようだ」
「これリボンごちゃごちゃしてる…誰か開けてくれ……」
むせ返りそうな甘い匂いをせめて薄めようとプロペラを緩やかに
回しながら、エアーマンがしみじみと答えた。その横で、送られて
きたプレゼントの一つに手をだし、何故かリボンが絡みまくっている
クラッシュマンが助けを求める。ワイリーが解こうと試みるが、
どうやったのか結目が恐ろしく固かった。
そんなのどかな父や兄弟機とは真逆に、ソファで膝を抱えて沈んで
いる機体が一体いた。
エントランスから聞こえるヒートマンの「そろそろ四桁いったん
じゃなーい?」という明るい声に、聞きたくないとうんざりと
顔を上げる。普段の自信に満ちた明るい顔は何処へやら、その美貌は
げっそりと青ざめていた。
「…もう勘弁してくれ……」
感謝や愛を伝え会う日に場違いな程沈みまくっているのは、膨大な
愛のプレゼントの贈り先である当の本人、クイックマンだった。
クイックマンは、彼が好んで出るレースでの活躍と、その持ち前の
整った顔立ちで数多くのファンを抱えている。この大量のチョコレートや
プレゼントは、全て彼のファンからのものだった。
「毎年増えていく…誰か助けてくれ……」
「おめでとうクイック消え失せろ」
どんよりと思い空気を撒き散らしながら「チョコ怖いチョコ怖い」と
呟きはじめたクイックマンに、フラッシュマンが舌打ちをした。
「おモテになってる証だろ、結構なことじゃねえか? だってのに
 贅沢な悩みだぜ、嫌みかてめえは」
「お前…このハゲ…数見てみろよ数を……」
貰いはじめた頃は、クイックマンも鼻高々に誇っていた。しかし
年を追うごとに数を増す愛の重さに徐々に圧され、今の様子に至る。
ガクガクと震え出した四男をよしよしと撫でながら、メタルマンが
ふと「そういえば」と尋ねた。
「フラッシュの基地も結構大変だったって聞いたけど、どうだったの?」
六男の基地からは、早朝にこのワイリー基地にいるフラッシュマンに
エマージェンシーがかかったのだ。

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