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□理由
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それを眺めながら、素直じゃない捻くれ者の六弟が、先程の内容に否定の言葉を
紡がなかったことに───自分相手に反論するのが面倒だというのもあるだろうが───
バブルマンは今度は静かに微笑みだけを浮かべる。
顔を合わせれば悪態をつき合い、または肩を組んで笑い合う。
怠そうに背中を合わせ寄り添い合っては、元気にE缶を奪い合う。
仲が悪いようでそうでもない、兄弟機のなかでも性能故に独特な、そして同時に微妙な
関係の可愛い弟機体達。
(本当に可愛いことこの上ないのにねぇ、色んな意味で)
そこまで考えて、ふと、長兄の癖が移ったのだろうかとバブルマンは思い至り、
自身の思考にくつりと喉をならした。
(さて、火中の我が愛しのもう一人の弟君、クイックはどこまでいっちゃったのかな)
僕が歩いていけるとこまでがいいなぁと思いながら、バブルマンがクイックマンの
機体反応サーチをかける。
基地内反応なし。
「……………」
(ああ、やっぱり。もう、面倒臭いなぁ)
マスクの奥で、バブルマンは小さく溜め息を吐いた。やれやれと首を振る。
(ま、あのスピードならだろうとは思ったけど)
サーチ範囲を広げてみると、ウッドマンの森に反応を見つけた。何とか彼一人でも行けそうな距離だ。
(……帰りは運んでもらえばいいかな)
「はぁ…本当に仕方のない子達だねぇ。一応クイックを探してくるよ」
僕あの子に話があるから、と言いながらバブルマンが立ち上がり、最後にするりと
フラッシュマンを一つ撫でた。ちろりと片目を開けて、フラッシュマンがその緑の手を
視線で追う。三兄と目が合った。
「通信でちゃちゃっと済ましちまえばいーじゃねーか」
「いや、あの子の百面相を楽しみたくて」
「それはそれは」
バブルマンの言葉に、一つ肩を竦めてフラッシュマンは少し笑う。
立ち去る三兄の零す笑みが、聴覚センサーに小さく拾われた。
そしてフラッシュマンも自分の二つ上の兄機体、クイックマンのことを、なでられた
心地いい感覚の余韻にぼんやりとしながらも、何とはなしに思い返した。


メモリに鮮やかに存在する、鮮烈な赤。
赤く、早く、速く、ひたすら光の先を目指す、忙しない兄機体。
共に並べることで、制限が生じる肩。
自分とは相対的な───相反し、また一方的に有利な───能力。
預かれない背。預けられない背。合わせられない、背。
何より速さを求め止まない兄機体を止め、そして傷つける自身の右腕。
しかしだからとて、優越感も引け目も感じたことはなかった。
自分の能力は恥じていない。寧ろ、何よりの誇りとしている。
与えられた特殊武器が、他の兄弟機の弱点になることは八機体全員に共通することだ。
父への冒涜になる思いは、兄弟機全員がそうであるように、自分も欠片も抱いていない。
況してや、自分の能力は父以外誰も、父のライバルすら成し得ていない分野。
それを誇りに思わずして、何が誇りになるというのだろう。
誰にも遠慮していない。
誰にも引け目を感じていない。
ただ、故に最初から気にはかけていた。その真直ぐさ故のどこか抜けたところや
危うさが、変に目についたのも要因だろう。
目にする姿は、いつも忙しなく煩かった。



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