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□理由
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触れた手は暖かく、しかし差し延べられた理由を自分は知らない。
その理由を知ろうと正面から問い掛けたとて、しかし容易く答えは返らないと知っている。
今の現状が不満なのではない。ただ、何故と不思議に思うのだ。
芽生えた好奇心は、しかし相手の予想できる反応にらしくなく尻込む。
それでも。
人を模した手を眺める。
触れた手は、暖かい。





理由





「マジで可愛くないなお前は!!」
「うんうん、そうだね、正しい意見だと思いますけど。それで?」
「それでってお前…ッ!!」
だああくっそ、もういい!
そう叫ぶように吐き捨て、クイックマンが荒々しく広間を出ていった。
今し方彼が機体を向けていたソファには、不遜を絵に描いたような姿の、休日の
お父さんポーズで横たわっているフラッシュマンがぽつりと残されている。
四兄が出ていったことでフラッシュマンは、べーと出していた舌を引っ込めた。
次いでドアから視線を外し、仰向けに転がる。目を閉じ、急に静まった室内に溜め息を吐いた。
本当に、ただ一機体が去ったというだけで、嘘のように辺りの空気が緩やかに
動きを止めて静かになっていく。
「………ん」
そんな中に、しかしまたも空気を震わせる足音をフラッシュマンが感知した。
少しの間を置いて、パシュン、とドアが開く。
そして呆れたような、しかしどこか楽しそうな声がフラッシュマンにかけられた。
「やぁ、楽しそうな声がすると思ってきたんだけど、さっき猛スピードで走ってった
 クイックと擦れ違っちゃった。また喧嘩したの」
「楽しそう、ねぇ。面白がってんじゃねえよ、バブル兄貴」
片目を開けて言うフラッシュマンに、落ち着いた緑色の機体、バブルマンは
楽しそうに肩を揺らした。手摺りに腰かけ、ソファ一面を陣取る六弟を見下ろす。
背もたれに横から機体をゆったりと乗せた。
「心外だな、可愛い弟たちの仲を心配してるのに」
「可愛いは余計だ兄貴。それに心配されるほど良い仲じゃねーよ」
再び目を閉じてそっけなく言うフラッシュマンに、バブルマンはふふ、と吹き出した。
そして、目の前で寝転がっているフラッシュマンと、先ほど広間を出たクイックマン、
二体の弟機体の仲を思い返す。さらに笑いが込み上げた。
「ああ全く、どうだか」
「んだよ」
楽しくて仕方ない様子のバブルマンを、フラッシュマンがじろり、と睨み付ける。
しかし何でもないようにそれを流して、バブルマンは肩を竦めた。
「さぁねえ、仲が良くないにしては、お前はあの子に構うよね」
「煩ぇな」
三兄につれない声を返し、フラッシュマンはごろりと背を向ける。
これ以上会話をする気がないような態度のその青い側頭部を、しかし構うことなく
緑の手がゆるい力でやんわりとなでた。
それに、意外にも文句を言うでもなく受け入れ、フラッシュマンはゆっくりと
機体から力を抜く。機体がソファに馴染むように沈んだ。
最近フラッシュマンはオフが続いたはずだが、またどこぞでいらない世話でも
焼いたのだろう、バブルマンには疲れているように見える。
幾度かなでると、不機嫌そうだった表情が微か和らいだ。

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