Main2

□cadeau
3ページ/4ページ

(────あー……)
写真ということで気後れした理由、高々一枚二枚程度を贈るよりも、
アルバムならば見栄えもずっといい。父や兄弟たちにミニアルバムを
作って贈る程度の写真ならば、それなりに枚数があった。それを
考慮すれば長兄の案も悪くはないように思え、フラッシュマンは
考えを改める。
(いいかもしんねえな、安上がりだがまあ……)
「………」
そして、ちらりと目の前のテーブルに置かれたプレートを、その上の
チョコレートへと視点を移した。
「……まあ、写真って案だきゃ、考えとく」
好みの味があった礼も兼ねて、とは言わず、フラッシュマンは少し
恥ずかしそうに、しかし照れ隠しに不機嫌そうに呟いた。
ごまかすようにパラパラとページを進める。
「え、本当に!?」
メタルマンがぱっと明るくなった。
「あ、じゃあね、お前一人のがダメなら、お前と二人で写ってるのがいいな!」
「…………は?」
メタルマンの言葉に、フラッシュマンは呆けた声を上げながら
視線を兄へと戻す。フラッシュマンが丁度いい味だと称した
チョコレートを一粒摘んでいる長兄が視認された。
「だから、お兄ちゃんとフラッシュの二人で写ってるやつ! それが
 欲しいなって!」
「…………!」
ほら、もう一個べ食ていいから!
うきうきと言うメタルマンの様子に呆れたようにアイセンサーを
すがめ、フラッシュマンは赤い指が摘んでいる、室温と機体温の
せいか僅かに溶け始めているチョコレートを見遣る。
折角丁度好みの味を、ヒントとなった良い案を言ってもらったことで
上がったフラッシュマンの中のメタルマンの株が、時を追うごとに
右肩下がりに落ちて行く。フラッシュマンは深々と溜め息を吐いた。
そんなこっぱずかしいものなど、どんなに乞われても贈る気はない。
何よりも二人で撮った写真などないし、撮る気もない。撮って
たまるかそんな恥ずかしいもの。
まったく、このブラコンめ、とフラッシュマンが回路の中でごちる。
「……だから、俺が写ってんのをやんのはやだっつってんだろうが」
言い終えると同時、がぶりと指ごとメタルマンに噛み付いた。
「いった!?」
結構な力で噛まれ、メタルマンが悲鳴を上げる。
知らん顔でもぐもぐと食べる六弟を恨めしげに見ながら、メタルマンが
救出した自分の指を撫でた。不満げにこぼす。
「むー、そんなに恥ずかしがらなくていいのにさ」
「! あのな……!」
取り澄ましていた顔をすぐに不機嫌なものにかえて睨んでくる
フラッシュマンに、メタルマンはマスクで覆われている唇の端を
くすりと持ち上げた。
「ほら、すぐむきになる」
「………っ!!」
図星だったらしく押し黙った隙をついて、メタルマンが再度六弟の
口にチョコレートを押し込む。
「んぐ!?」
赤らんだ目元が悔しそうに睨みつけてきた。
そうやって照れ隠ししてばかりのこの弟が、いかに暖かな視線を
家族に向けているか、メタルマンは知っていいる。その数ある
優しい写真のなかに当人が含まれていたところで、何等おかしい
ことなどないというのに、フラッシュマンは頑なに拒むのが
メタルマンは不満だった。
室温に溶けかかったチョコレートがじわりとフラッシュマンの
咥内に広がり、わざわざ個別に作ってくれた好みの味───程好い
苦みを味わう。
愛しそうに目を細める長兄を睨みつけながら、フラッシュマンは
口に差し込まれた指にまた強く歯をたてた。





おわり

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ