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□信号3
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無駄な会話をする気はない、そう言わんばかりのフラッシュマンの不遜な態度に、
白衣の男の唇が柔らかな弧を描いた。
話が早く済みそうで都合がいい、そんな様子だった。
「回りくどい余計なお喋りは嫌いかな、気が合うね。じゃあ、早速で悪いけど、
 君たち、あー…ワイリーナンバーズ? の情報を提供してもらいたい」
「はぁ、紳士っつーより見たまんま科学者サマだろあんた? 勝手に俺の頭から
 とってけよ。てか、とっくにそうしてっと思ってたケド? 何、プライバシー配慮?」
相手が何なのか、どこの手の者なのか。お互いに問いはしないし、目的も聞かない。
すでに分かり切ったことを聞くようなことは、お互いにしない。
面倒臭げに小馬鹿にしたようにフラッシュマンが答えると、白衣の男はちらりと
後ろを振り返り機器に視線を向ける。その機器の向こうには人間が数人、忙しなく
何かを打ち込んでいた。白衣の男がやれやれと溜め息を吐く。
「取っていきたいのは山々なんだけどね、君のセキュリティが随分と優しい仕様だった
 みたいで、解析ソフトがいくつかやられてしまったんだ」
「おや、そりゃ災難だったな」
ってことは、後ろの奴らは返り討ち後の後始末に追われてるってとこか、ざまぁみろ。
内心でそう吐き捨てながらフラッシュマンが他人事同然に言うと、白衣の男は
くつりと喉を鳴らした。こちらへと向き直る。
「ロボットなのに随分と優秀なんだね」
「さぁてね。どうだか」
殆ど動かない壊れかけの機体で、それでもフラッシュマンが肩を竦めてみせると
至極楽しそうに、白衣の男は壊れていない左のアイセンサーを覗き込んだ。
やんわりと頬に手が添えられる。普段堅いものに触れない故に柔らかで、常に
細かい作業をする故に細長く、基本日に当たらない故に青白い、冷たい手だと
フラッシュマンは思った。
「はは、人の真似がうまい。謙遜のふりまで出来るんだね。どんなプログラムの
 組み方をしているんだい? 壊れかけでこれとは興味深いな」
「真似…?」
その単語に引っ掛かり、フラッシュマンはぴくりと目を僅かに細めた。
その反応を見て、柔らかな笑みも声も変えぬまま、白衣の男は面白そうに頬を
なぞりながら言葉を続ける。その指先が右のアイセンサーの亀裂に突き入れられないのが
いっそ不思議だと思うような、嫌な感触がフラッシュマンの頬に走った。
目は笑わないままに、くつ、と、また白衣の男の喉が鳴る。
「ああ、真似だよ。酷い飯事だ。所詮、人が人を真似て作っただけの、人間の
 粗悪品に代わりはないんだよ、君たち機械人形は。プログラム通りにしか動けない」
きり、と一瞬指先に力が入り、ほんの僅かに頬に指が食い込んだが、すぐに何事も
無かったかのように白衣の男の手はするりとフラッシュマンから離れた。
次いで、フラッシュマンが縫い付けられている台に沿ってゆっくりと歩き始める。
爪先の辺りで踵を返し、頭部の方へ戻ってきた。
「それも、変に気の触れた───おっと、失礼───変り者の科学者が作り主なら、
 尚のこと変なプログラムなんだろうね」
ふふ、と哀れむように、半壊の青を男は見下す。

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