Main2

□信号3
2ページ/10ページ






それからすぐなようで、恐らく実際には暫し時間が過ぎた頃。
フラッシュマンの意識がふと浮上した。
管理された空調、一定の光源、何かシステムの駆動音。
馴染みのあるようで、しかし知るものとは全く違うそれらに気付き、そしてすぐに
狙い通りに手柄の品である自分が施設の中に運び込まれたことを知る。
時刻を確認してみると、四時間は経過していた。
(……さて…)
寝たふりをしていても仕方がない。今は完全に監視対象でしかないのだから、
誤魔化すだけ無駄だ。そう思って起きたことを知らせるようにフラッシュマンは
無事な左のアイセンサーをゆっくりと稼働させた。
しかし光源への対処とピント合わせに、思いの外手間取る。
破損による機体への負荷が思ったより大きいのではと内心少し焦った。
漸くピントが合うと、まず天井が、少し視線を動かすと部屋の内装がフラッシュマンの
視界に入る。白い天井、白い壁、当然のように窓は見受けられない。すぐ傍に
存在するのは何かの機器。その機器の出す熱以外は、ひやりと管理された空気。
そして、幾人かの人間の気配。
天井には視認出来るだけで二台の監視カメラがこちらを向いている。
機体は破損状態はそのまま、しかし首と右手首、腹部には寝かされている台に
縫い付けるように枷がはめられていた。
挙げ句、無事な部位の接続ポートには機器から伸びるコードの端子がいくつか
差し込まれている。機体の情報履歴を確認するまでもない、どうせハッキングだろうと
フラッシュマンは思う。セーフティが自分を叩き起こすほど働かなかったという
ことは、あまり警戒するほどではないと結論づけた。
その機器以外の音、更に外の音は、荒野地帯にある施設だというのに風の音すら
フラッシュマンには届かなかった。
(はぁ、にしても、セオリーすぎやしねーかこれ……お決まりに地下かよ…)
たまにはイレギュラーに屋上で日光浴しながらとか、日光浴といえば白い浜辺で
捕虜に美女が侍ってドリンクサービスとかないのかね。面白みのない。
ぼんやりそんなことを思っていると、ふとフラッシュマンの顔に影がかかった。
低い声がそれに続いてふってくる。
「起きたのかね」
つい、とフラッシュマンが答えるように視線を向けると、壮年で眼鏡に白衣といった、
科学者の見本のような姿をした男が視界に映った。浮かべる表情は酷くにこやかで
朗らかな、しかしレンズの奥の目は笑っていない。
ああ嫌なタイプだと、フラッシュマンの回路に瞬間的にちらりとパルスが走った。
「やぁ、初めまして、ロボット君」
「どーも、あー、おにーさん?」
首から下げている身分証明のプレートにある名前や称号などを一切無視し、
フラッシュマンは挨拶を返す。しかし半壊のロボットのそんな声に、白衣の男は
構わずに視線を顔から下へと流した。きゅ、と眉根を寄せ、哀れむような表情を浮かべる。
「随分酷い壊れ方をしている」
「お陰さんで」
皮肉にしても出来が悪い。
単純にフラッシュマンはそう思った。
下手な演技に応えてやる気はないとばっさり切り捨て、素っ気なく皮肉げに返す。

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ