Main2

□信号3
1ページ/10ページ


信号2の続き
・若干の破壊描写あり
・オリジナルの悪役出現





機体反応無し、感知可能エリア外、感知不能。
光すらほとんど差し込まない暗やみの中、土埃に少しだけ排気が乱れた。





信号 3





「よっしゃ、行ったか……」
ったく、面倒臭い奴らめ。
瓦礫の中、フラッシュマンはぽつりと呟いた。
センサーが機体反応を感知しなくなる前から、辺りはしんと静まり音をなくしている。
故に、その声はやけに大きく聞こえた。
ぱらりと、たまに小石が落ちる音がする。
兄弟機が完全に退却したことを確認してから、フラッシュマンは改めてちらりと
視線を自分の機体に向けた。そして、自分の口も中々だと、唇の端を釣り上げる。
散り散りになった青がどこか滑稽だ。騙されてくれた兄弟機に感謝しなくてはと、
回路の端で吐き捨てる。
右腕の破損がないのは嘘ではない。
しかし、後は全部嘘だ。
否、嘘というよりも、実際より軽いように報告したのだ。
左腕は肩から持っていかれ、辛うじて微かな配線と千切れかけた内部骨格で
繋がっている。胸部には小さくない亀裂がいくつも走り一部装甲が剥がれ、
腹部も一部保護材が破れて内部が露出していた。両足は砕け、膝から下が完全に
剥離した挙げ句砕けひしゃげ、見れたものではない。
そして、右顔面がやられ、右側のアイセンサーが死んでいた。
「流石にこれ相手にゃあ強度がもたんか…」
辺りを埋め尽くす岩石を眺めながら他人事のように、自然のものには適わない、と
畏れを抱くようにフラッシュマンは溜め息を吐く。
物質そのものの強度で勝ろうと、かかる重量とその瞬間的な力の方向には、塊では
ない、様々に細かく組み合わさっている内部金属や装甲は対処仕切れない。
故に歪み、剥がれ、割れたのだ。しかし内部までの破損は免れたとはいえ、頭部の
損傷にはフラッシュマンも肝を冷やしたものだった。
それにしても。
フラッシュマンはごちる。
先程から痛覚遮断がうまくいかない。
「───チィッ……!」
それが全くもって腹立たしいと、悔しげに舌を打った。殊に、腕を持っていかれた
左肩が猛烈に痛むのだ。
大抵の痛覚遮断は間接ごとに行うため、処置を行う場所ごと持っていかれては
遮断処置そのものがうまくいかない。セーフティが苛立ちに拍車をかけるほど煩かった。
(あ"ーもーやってらんね)
先程の兄弟機とのやりとりを思い返し、強がるのも随分とエネルギーを使うものだと、
フラッシュマンは苦しげに歯噛みする。
そして、ふとそこに。
セーフティの警告に割って入るように、陸路からの何か機体反応───仲間では
ない、どうやら敵のもの───をセンサーが感知した。
「おっと、思ったより早かったな」
敵側から、どうやら爆撃後の確認に来たらしい。
空からの偵察機でちゃっちゃと、ではなく、わざわざ陸路で赴くのはちゃんと
仕留めたか、まだ動くか、利用価値があるかなどを見定めるためだろうと
フラッシュマンは思う。
───仕留めた獲物が、うまそうな何かがいないか漁りに来たか。ハイエナ共め。
(……って、まぁ、愚痴っててもしゃーねーか…)
また一つ溜め息を吐き、フラッシュマンはシステムを閉じ始める。
不自然な落石の中、どんなにレトロな物を使ったとしても金属探知さえ出来れば
ここに自分がいることは知れるだろう。そして目当ての、システムが落ちた機体が
ここにあることに気付けば、まず間違いなく施設へと運ばれる。
他に手が無かったのもあるが、わざわざ残ったのは他ならぬこのためだった。
しかし、廃品回収に来た下っぱとわざわざ接触するのは、酷く面倒だ。
ただでさえ壊れかけの身だ、挙げ句システムダウンしたように見せ掛けてまで
やるのだから、精々頑張ってこの岩々の中から丁重に運ぶがいい。悪名高い
ワイリーナンバーズの機体だ。その手のものからしたら極上の宝だろう。
ここにいることに気付かなかったり、ただ止めをさすだけさして持って帰らないなら、
相当の馬鹿だと笑ってやろう。
そう思いながら、フラッシュマンはシステムが閉じ切るまで、瓦礫の周りに何かが
近づく音に耳を傾けた。
岩を砕こうとする音が聞こえた辺りで、意識は闇に落ちていった。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ