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□残り香
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ホットミルクでも作ってやるかとキッチンへ向かった。ブランデーを入れてやる
べきか一瞬考えたが、アルコールがちゃんと飛んでなかったら後々面倒なので
止めることにした。
「いっそブラックのコーヒーでも煎れてやろうかねぇ……」
呟きながら、辿り着いたキッチンのドアを潜り、かちゃかちゃと準備に入る。
とろりと柔らかな液体が暖まるのを待っていると、ふいにドアがスライドする
音を感知した。
待ちきれなくなったヒートマンが寒い廊下を我慢して来たのかと思い、フラッシュマンが
振り返る。しかし、彼の視界に入ったのは黄色い箱型にシートを纏った弟では
なく、鮮やかな赤い色だった。
「……何してんだお前」
「こっちの台詞だ。もう帰還してたのかよ、てめえ?」
「ああ、さっきな。さぁ労れ敬え奉れ」
「やなこった蔑んでやる。夜更かし嫌いなてめえがここにわざわざ来たって
 ことは、E缶取りにきたのか」
「正解。お前はそれ何作ってんだ?」
「ホットミルク」
「うわぁ、お子様ハゲ」
「ヒートにだよこのアホたれ!」
「あー、相変わらず寒がってんのか。また一緒に寝んの?」
「ん、当たり。って、何で俺があいつと寝るって分かったんだ?」
「シートの塊がお前の部屋の前にいるのが見えたから」
「あぁ、そん頃に帰還したのかてめえ。マジでついさっきだな」
しょうもない応酬をしながら、暖まったミルクをフラッシュマンがマグに注ぐ。
次いで、それに砂糖と蜂蜜を加えた。それを見てクイックマンがアイセンサーをすがめる。
「うっわ……」
「……我らが弟は甘党なんだよ」
「知ってるけどよ……」
よく飲めるよな、と互いに思いながら、しかし言葉にしないまま黄色いマグを
黙って眺めた。
次いで、フラッシュマンがE缶を手に取り、ぽん、とクイックマンに向かって放る。
「おら」
「お、サンキュ!」
ぱしり、と音を立てて受け取った。礼を言いながらフラッシュマンを見やると、
彼はミルクが入った二つ目のマグになみなみとブランデーを注いでいた。
その姿に、クイックマンが今度は目を丸くする。
「おいおい、ヒートに酒のますのかよ!?」
「なわけあるか。こりゃ俺んだ。二つあんだろよく見ろ」
「あぁ……。って、だからって六割ぐらいブランデーなのはどうなんですかね?」
「安物だからいいだろ」
「多分そういう問題じゃない」
言いながら、二人で並んで廊下へと出た。またも交わされる下らない掛け合いに
小さく笑いながら興じる。廊下に細やかな笑い声が小さく聞こえた。
時折、E缶や半分以上ブランデーのホットミルクを啜る音が鳴る。
すぐに個別の部屋が連なるエリアに辿り着いた。
クイックマンの部屋の前にさしかかり、じゃあ俺寝るから、とドアにアクセス
しようとした赤い兄機体の腕を、しかしフラッシュマンは何を思ったのかふと掴んだ。
「………?」
「………」
訝しげにクイックマンが見るが、フラッシュマンは何かを考え込むようにじっと
掴んだ腕を見ていた。少しの間沈黙が辺りを支配する。




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