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□残り香
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残り香



夜、もうどの兄弟機も機体を休ませているだろうという時間。
任務から帰還したクイックマンが、基地内の廊下を歩いていた。
遅くまでかかった任務の成功に満足と心地いい疲労感を抱きながら、機嫌よく
自身の部屋へと足を向けている。父はもう休んでいるだろう時間なので、報告は
明日起床してからすることにした。
自身の部屋のドアの前まで辿り着き、入るためにアクセスしようとしたら、
ふと何やら誰かの声がクイックマンの聴覚センサーに届いた。
「……?」
何となくその声の方にクイックマンが視線を向けると、離れた位置の部屋の前に
七男のヒートマンがもこもこと保温シートを纏って、その部屋の中にいるらしい
誰かと話している。
その部屋の主の姿は、廊下にいるクイックマンからは確認できなかった。
夜遅い時間のためか声が小さく、クイックマンには会話が聞き取れなかったが
何となく見ていると部屋の中から青い腕がヒートマンにのばされ、抱え上げた。
そして二人とも部屋の中へと入り、次いでドアがスライドして閉じられる。
そこまで見届けてから、ああ、なるほど、と理解が及んだ。そして、クイックマンは
今度こそスリープに入るために自室のドアを潜った。


「寒い、マジ寒い、超寒い」
「分ーかったから静かにしろ、博士はもう寝てんだぞヒート」
シートごと抱えた弟機体をもふりとベッドに降ろしながら、フラッシュマンは
やれやれと溜め息を吐いた。つい先程までスリープに入っていないながらも
ごろごろとしていたベッドの上に、彼の一つ下の弟機体のヒートマンが鎮座している。
「だって寒いんだもん…!」
「分かったっつーの」
「何でこれが平気なのさー、冷血漢ハゲ!」
「使い方間違ってるぞそして蹴りだされたいか。てか、俺じゃなくてもっと
 平常機体温の高い奴んとこ行きゃいいだろうが?」
「何となくフラッシュの気分なの、今日は」
「そりゃ光栄でございますこと」
仄かに暖かいベッドの上で纏ったシートをもこもこと動かしながら言ってのける
弟に、フラッシュマンは肩を竦めた。
機体格が大きい部類に入るフラッシュマンの寝台はそれに見合ってそれなりに
大きく、ヒートマンが加わってもあまり問題ない広さを持っている。
頻繁にと言うわけではないが、たまにこの七男が潜り込んでくることがあり
一緒に眠るというのはフラッシュマンにとってさして珍しいものでもない。
そのため、フラッシュマンは慣れた手つきで寝台に弟機体を寝かせ、纏っていた
シートと自身のシートを重ねてかけてやった。
ぽすぽすと柔らかく叩く。
しっかり包んでもしかしまだどこか寒そうなヒートマンの様子に、このまま隣に
潜り込んでもあまり効果は見込めないと見て、仕方ないとフラッシュマンは
七男の頭を撫でた。
「……ちょっと待ってろ、何かあったかい飲みもん持ってきてやるから」
「あ、マジで!? やった、熱めにしてねー!」
「感謝しろよ」
「するする! した!」
嬉しそうなヒートマンの声を背に、フラッシュマンが部屋の外へと出る。

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