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□優越
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金属が地面を蹴る不快な音。
時折聞こえる銃声。
零れる嘲り。
上がる悲鳴はしかし、すぐにそれを追う足音に掻き消された。



優越



悪名高いワイリーナンバーズ、というのは、どうやら嘘偽りの存在らしい。
どんな情報の行き違いがあったのか知らないが、その実態は噂とはまるで逆で
本当は実力を伴わない、ただの木偶の坊の集まりのようだ。
目の前の獲物を追いながら、頭の隅で吐き捨てる。
薄汚い茶色の布を纏い、みっともなく背を向けて走る機械人形にまた一つ
威嚇の弾を撃った。そばに転がっていた缶にあたり、ギィン、と音が鳴る。
「ヒ、ぃいッ……!」
その獲物から、情けないにも程がある悲鳴が上がった。
ああ、酷い声だ、出来損ないめ。
悲鳴を聞いてもう一度、頭の隅で嘲り吐き捨てた。


武器の売買を違法に行っている自分達のアジトに愚かにも忍び込んでいた、
薄汚いこのロボット。随分と人を模している形をしていたため、最初は乞食でも
紛れこんだかと思われたらしい。
しかし、纏っている布の隙間からちらりとほんの一瞬見えたのは、悪名高い
マッドサイエンティスト率いる一団のマーク。
ドクターワイリーナンバーズ。
そのワイリーナンバーズのマークを施された、その一団の一機体だと判明した
こいつ───怯えて逃げてばかりいる、情けない臆病者───は、アジトの
システムから直にこちらのデータにアクセスし、何かしらの情報を奪ったらしい。
現場を発見した数人からは辛くも逃れたこいつは、しかしすぐに追跡に出た
自分達に追い付かれた。
情報を奪い返すためと、自分達にちょっかいを出すとどうなるかの見せしめに
こいつを捕らえ壊して名を上げてやろうとしているのだが、如何せん妙に逃げる
のがうまく、いまだこの追い掛けっこを続けている。
しかし、それも時間の問題だ。土地勘がある自分達にはわかる、着々とこいつは
自らを縄で縛り上げるのと同等のコースを走っているのだと。
可笑しさに耐え切れなくなった仲間が一人、嘲笑う声を響かせた。
愚かで、身の程知らずで、臆病なこいつは、それだけでなく運もないらしい。
壊されまいと、自分達の手から必死に逃げ回って行き着いた先はなんとも
可笑しいことに袋小路。
焦ったように壁を前に立ち止まる姿が一際滑稽にうつった。
何とまあ、見事なものだ。
ロボットのくせに地図もインプットされていないのか。
これはいい。
全く出来の悪い喜劇だ。
ワイリーナンバーズだと。
勝手に一人歩きした噂だけの存在。
実力も運も、ロボットのくせに頭もない、このないないづくしの敵の実態を
目の当たりにして嘲りに口端が釣り上がる。
機械の身でありながら浅ましく命乞いでもするだろうか、と頭に浮かび、益々
笑みが深まった。




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