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□代償
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手をかざす。
光が揺らめく。
指で突く。
高く澄んだ音が鳴る。


光の幕や固まりが幾つもはためき、渦を巻き、非対称の両手に誘われていた。




代償




次々と組み合わさっていく、少しだけ緑がかった淡く薄い光。
白い手が横に滑るたびに、まるでその軌跡のようにそれが現われた。
幕のように、しかし風もない中に音もなくはためき、渦のように、しかし流れの
ない中に煌めきながらそこに生まれ出る。
指で突かれると澄んだ高い音が一つ鳴り、それはすぐに目の前にある光の壁に
吸い込まれて同化した。
ほのかな明かりを持つそれはとても柔かで、少し触れただけで揺らめく様は
簡単に破れて消えてなくなりそうだ。
単体では透けるほど薄く淡い光を宿すそれは、しかし幾重にも組み合い重なり
今は眩しいほどの壁となって存在している。
その壁は巨大で、何かを守るようにドーム型をしていた。その大きさのせいか、
周りが暗い中にそこだけがとても明るい。
そしてどこか美しい。
それを構築している当人は、まだ未完成ながらも目の前にある存在の出来に
愛しげに目を細めた。
DWN014、フラッシュマンが巨大な壁を前に、擬似構成された機体にその光を浴び
ながらゆったりとそこに浮かんでいる。
この光のドームの向こうには、より高密度の情報の集積体が存在していた。
今彼が造り上げているのは、とても大切なそれを護るための壁である。
壁を造っている、と言うよりは、もともとあった壁の強化と言ったほうが正しいか。
基地のネットワークセキュリティのバージョンアップ。
その仕事をフラッシュマンは一人で担い、もう随分長いことこのデジタルの
世界に身を置き作業を続けていた。
情報を組み立てては素数を追い、高速で暗号化していく。
宝物である基地内の情報が大きく高濃度である故に、それを守る壁の情報量も
膨大でなければ役に立たない。
特別に組んだプログラムを次々仕込んでいく、という面倒な仕事だが、時間を
かけただけあって中々の代物になりそうだ、とフラッシュマンが自分の腕と
その壁の出来栄えに一人悦に入る。
すると。

───     …───

「……!」
擬似的に構成してある機体に、ふと信号が走った。
その信号に応えるかのように、つい、と顔を上に向ける。
酷く控えめで、下手をしたら見逃しそうなほど小さく穏やかな信号だった。
身に覚えのあるこの感覚は、誰かがデジタルの世界に潜っている自分を呼んで
いるものと同じだ。誰かが自分を呼んでいるらしいと判断するが、しかし、と
フラッシュマンは考える。



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